寄稿エージェント:黒岩 宏太
「今の会社は下流工程ばかりで先が見えません。なんとかして大手のSIerや事業会社に行きたいんです」
ハイクラス層を目指す若手・中堅エンジニアの方々とお話ししていると、日々このようなご相談をお受けします。SESや中堅IT企業の現場で実務に真っ直ぐ向き合ってきたからこそ、「もっと上流工程に携わりたい」「自分の実力を正当に評価される環境に行きたい」とステップアップを願うのは、ごく自然な感情であり、私も痛いほど共感しています。
私自身、新卒で富士通株式会社に入社し、システムエンジニアとしてSaaS導入などの開発経験を積んだ後、最終的にはプロジェクトマネージャーとして大手不動産企業向けのSaaS導入案件を推進しておりました。そこから「エージェント」という、全く異なる職種と環境へ大きなキャリアチェンジをした人間です。
「なぜ、わざわざ大手から転職したのか?」とよく聞かれます。
本日は、転職市場の最前線を知るエージェントの視点から、「大手企業へ行くこと」の本当の意味と、会社の規模以上に大切な「自分のキャリアを考える重要性」をお伝えします。
大手の「看板」と個人の「市場価値」は比例しない
大手企業には、確かに魅力的な環境が整っています。数億円規模の社会インフラを支えるプロジェクト、充実した福利厚生、高い給与水準、そして何より「〇〇会社の社員である」という社会的な信頼。これらは中堅企業やSESではなかなか得難い、大手ならではの特権です。
しかし、実際に働いていた私は、ある種の「将来的な不安」も同時に感じていました。
業務内容は年々増えていき、納期や期日に追われるようになります。そうすると、自己研鑽に使える時間は減っていき、業務をこなすことで手一杯になります。
また、その業務内容は協力会社のコントロール、社内決裁を通すための資料作成、他部署の根回しといった「調整業務」の割合が増えていきます。
もちろん、プロジェクトを推進する経験自体は非常に価値があります。しかし、AIが凄まじいスピードで進化し、仕事がAIに代替されていく現実を目の当たりにした時、「私は一人のビジネスパーソンとして今どれだけの価値があるのだろうか?」と、自分のこれまでを振り返った時に恐ろしくなりました。
会社の中で評価されるスキル(社内政治や社内ツールのお作法)と、転職市場全体で評価される「ポータブルスキル」は別物です。大手にいるだけで市場価値が上がり続けるというのは、完全な幻想なのです。
私が大手SIerからアサインへ飛び込んだ理由
私が大手SIerを退職し、アサインへ飛び込んだ最大の理由は、「自分のキャリアの主導権を、自分で握りたかったから」です。
会社のネームバリューではなく、「個人の名前」で勝負できる実力をつけたい。システムという枠を超えて、人の人生やキャリアという「重要な課題」に直接向き合い、自分の介在価値をダイレクトに感じたい。そう考えた結果が、ハイクラス向けのエージェントという道でした。
アサインへの転職は、決して楽な道ではありませんでした。大手の看板は通用せず、成果が全てです。しかし、自ら考え、行動し、顧客の人生を好転させる手伝いができる毎日は、以前では得られなかった「自己成長とやりがい」を与えてくれています。
だからこそ、私は転職のご相談に来られる方に必ずお伝えしています。「大手に入社することは、キャリアのゴールではなく、単なる通過点に過ぎない」という事実を。
現職の不満から「とりあえず大手」は危険信号
現在、SES企業や中堅企業に在籍しており、大手を志望する方の多くは「今の環境への不満」を抱えています。
「給料が上がらない」「客先常駐で自社への帰属意識がない」「上流工程をやらせてもらえない」。その不満を解消する手段として「大手への転職」という選択肢が生まれます。
しかし、プロの視点から一つだけ大切な事実をお伝えします。「今の環境から逃げたい」という思いだけが先行してしまうと、入社後に高い確率でミスマッチが起きてしまいます。
また、「環境が変われば全てが解決される」という受け身のスタンスは、面接官には見抜かれてしまいます。
なぜなら、大手企業が中途採用で求めているのは、「指示を待つ優秀な作業者」ではなく、「自ら課題を発見し、周囲を巻き込んで解決に導ける人材」だからです。
もし運良く大手に入社できたとしても、「自分のキャリア軸」がないままでは、今度は「やりがいなく淡々と仕事をする」「業務量が多すぎる」という新たな不満を生むだけです。
結果として、「こんなはずじゃなかった」と早期離職に繋がるケースもあります。
面接官も納得する「キャリアの描き方と考え方」
では、現在の環境から自分が目指すべきキャリアの見つけ方、自分の経歴を整理するためのポイントを3つお伝えいたします。
- これまでの経験を武器(課題解決力)に変える
SESや中堅企業での現場経験を「やらされ仕事」と語るか、「困難な状況下を乗り越えた経験」と語るかで、市場価値は大きく変わります。
火消し案件を乗り越えたタフネスや、多様な現場で培った顧客折衝能力や適応力は、採用企業が喉から手が出るほど欲しいスキルです。環境への不満ではなく、現職でいかに主体的に動いたかを言語化してください。 - 「どこで働くか」ではなく「何を成し遂げたいか」の軸を持つ
「〇〇会社に行きたい」という会社ありきの志望動機は弱いです。「AIに代替されない上流工程のプロジェクトマネージャーとして、〇〇領域で社会課題を解決したい。そのための環境として御社が最適だ」という、自分の将来像(ビジョン)ありきのストーリーを構築することが必要です。 - 逆算して現在地を正確に把握する
自分の将来像から逆算したとき、現時点で足りないスキルは何か。また自分の現在地はどの程度なのか。将来像とのギャップを埋めるために、今どのような選択肢があるのか。
また、その選択肢の中で一番現実的で着実なステップアップができる道は何かを冷静に考えて自分の現在地を把握する必要があります。
会社の「看板」ではなく、自分自身の「キャリアの軸」を持つ
大手企業への転職は決してゴールではなく、あくまで自己実現のための「通過点」に過ぎません。会社の規模やネームバリューに依存するのではなく、どこに行っても通用する「ポータブルスキル」を磨き、自らのキャリアの主導権を握ることこそが、これからの時代を生き抜くための最も確実な手段です。
現状への不満から「とりあえず大手へ」と考えるのではなく、自分の将来像に合わせた後悔のないキャリアアップを実現するために「どこで働くか(環境)」を軸にするのではなく「何を成し遂げたいか(ビジョン)」を考えることが大事です。