寄稿エージェント:本郷 雄大
20代ハイエンドが、キャリアの“順番待ち”を避けて戦略的に「実戦機会の多い環境」を選ぶべき理由
転職市場において、20代中盤から30歳手前までのいわゆる「ハイエンド層」と呼ばれる方々のカウンセリングを行っていると、非常によく似た構造のモヤモヤに突き当たることがあります。
- 「今の会社は誰もが知る大手で、居心地も悪くない。ただ、自分が打席に立てている実感が薄い」
- 「先輩たちを見ていると、10年後に自分がどうなっているかが完全に読めてしまう。このままで市場価値は上がるのだろうか」
彼らは決して、現状に強い不満があるわけではありません。むしろ優秀だからこそ、「このままで自分のキャリアの複利は最大化されるのか」という健全な焦燥感を抱いています。
20代ハイエンドが圧倒的な市場価値を築くために重要な視点の一つ、それは「打席数(実戦機会)が多い山(環境)」を意図的に選ぶという選択肢を持っておくこと、そして「企業の順番待ち」という構造を理解しておくことです。
本題に入る前に、この記事で繰り返し登場する「山」と「打席」という言葉の定義を、あらかじめ共有させてください。
- 「山」:あなたが身を置き歩むキャリアの道。「業界」や「職種(専門ドメイン)」のこと
- 「打席」:自ら責任を持って意思決定を下し、ビジネスを動かす「実戦の機会」のこと
今回は、私が日々ハイクラスの現場で求職者の方にお伝えしている「キャリアの原理原則」の知見を交えながら、20代後半という極めて重要な時期に選ぶべき「山」と「打席」の本質について、綺麗事抜きでお話しします。
キャリアの骨格をなす「4つのフェーズ」
まず前提として、知っておいていただきたい体系的なフレームワークがあります。キャリアには、大きく分けて「4つのフェーズ」が存在します。
- 第1フェーズ:キャリア探索期(20代前半〜中盤・第二新卒期)
- 第2フェーズ:専門性確立期(20代後半〜30歳・ミドルキャリアへの入り口)
- 第3フェーズ:レバレッジ移行期(30代前半〜・マネジメントや仕組み化へのシフト)
- 第4フェーズ:市場価値還元期(40代以降〜・経営、専門統括)
今、20代後半を迎えられている方は、まさに「第2フェーズ(専門性確立期)」の入り口、あるいはど真ん中に立っています。この時期にどのような意思決定をするかで、30代以降の伸び代やキャリアの選択肢は大きく変わります。
このフェーズの戦略を紐解くために、まずはキャリアを「山登り」に例えて考えてみましょう。
原理原則1:キャリアを「山登り」で構造化する
キャリアの選択肢は無限にあるように見えますが、市場を俯瞰すると、明確にいくつかの「山(職種・業界のドメイン)」に分かれています。
例えば、分かりやすいところで「営業職」という山を例に挙げてみます。営業としてのキャリアの築き方(ルート)には、大きく分けて3つあります。
- もっとも王道ともいえる、メンバーから実績を上げ、主任、課長、部長へと役職(レイヤー)を上げていくルート
- 圧倒的な成果を出し続け、組織の看板となるスーパープレイヤーを目指すルート
- 営業企画やインサイドセールス組織の立ち上げなど、組織全体の成果を拡大する「仕組み」を構築するルート
これだけ見ると選択肢が広いように思えますが、本質的には「営業(セールス)という1つの山」を登っているに過ぎません。将来のゴールが厳密に決まっていなくても、この山を登っている限りは、途中からでもルートを変更できますし、それまでに培ったスキルや人脈のアセット(資産)がそのまま活きます。
しかし、もしあなたが20代後半、あるいは30歳になってから「実はエンジニアになりたい」「未経験からマーケターとして生きていきたい」となったらどうでしょうか。
これは、別のルートを選ぶことではなく、「全く別の山に登り直す」ことを意味します。営業力と技術開発力、あるいはデータ解析力では、求められる脳の筋肉もスキルも全く異なるからです。
別の山に登り直すということは、一度、今いる山を綺麗に降りなければなりません。ここに、20代後半という年齢特有の「リアルな壁」が立ちはだかります。
原理原則2:20代後半は、カードを比較的ローリスクで切れる「ラストチャンス」
転職市場における20代前半(第1フェーズ)と、20代後半(第2フェーズ)の最大の違いは、企業側があなたを見る「評価の目線」です。
前提として20代前半までの第二新卒期であれば、万が一山選びを間違えても、市場は「ポテンシャル」という非常に強力なカードで評価してくれます。未経験であっても、「地頭が良く、素直で、自社のカルチャーや仕事の進め方に柔軟に適応してくれるなら、別の山から引き取って育てよう」という企業が数多く存在します。他の年代に比べれば、比較的ローリスクで別の山へ飛び移れる、いわばキャリアの模索ができる「探索期」なのです。
積極的にお勧めするわけではありませんが、人は自分に合った仕事をどこまで熟考して選んだとしても、「いざ蓋を開けてみたら意外と合わなかった」ということは往々にしてあります。やってみて初めて分かる“適性”は、確実に存在するからです。
究極的に、この第1フェーズの期間におけるミスチョイスであれば、市場におけるリカバリーは効きます。
しかし、20代後半(26歳〜30歳)からは市場のルールがガラッと変わります。企業が求めるのはポテンシャルではなく、「これまでの山で、どんなアセット(経験・専門性・即戦力性)を積んできたか」という一点に尽きます。
もし、30歳前後になってから「完全に未経験の新しい山」に登り直そうとすると、選考の現場では非常にタフな現実が待っています。
人事の本音を言えば、全く同じ「未経験枠」の求人があった場合、企業は「これから長く働いてくれて、吸収力もある20代前半〜中盤」を好む傾向があります。現場のリーダーが仮に28歳だった場合、年上の30歳未経験が入ってくることは、マネジメントの観点からハレーション(組織内の摩擦)のリスクがあるとみなされるケースがあるからです。
結果として、実績やマネジメント経験がより一層シビアに求められるようになるため、書類選考のハードルは20代前半〜中盤に比べて格段に上がります。
さらに、仮に書類選考を通過したとしても、面接で求められるアウトプット(思考の深さや課題解決力)のレベルも当然上がります。そのため、「面接通過率」という観点から見ても、そのハードルは大きく跳ね上がってくるのが現実です。
加えて、未経験へのキャリアチェンジは一度山を降りるため、一時的に年収がダウンするという痛みを伴うことも少なくありません。生活水準やライフステージの変化を考えると、この経済的サンクコスト(埋没費用)を受け入れるのは簡単ではないはずです。
つまり、今の年齢というのは、「これまでの経験を活かし、市場価値を保ったまま、次のステージ(別の山、あるいはより高く登れる山)へ有利にスライドできる、一番美味しいけれど、一番ギリギリのラストウィンドウ」なのです。
成熟企業の持つ価値と、そこに潜む「順番待ち」という構造
では、この重要な第2フェーズにおいて、どのような環境を選ぶべきなのでしょうか。
前提として、歴史のある成熟企業や大手企業に身を置くことは、非常に素晴らしい選択です。社会的信用、大規模な予算、完成されたビジネスシステム、そして各界の優秀な人材と協業できる環境は、大手企業ならではの圧倒的なアセットであり、そこでしか得られない視座が存在します。
しかし、もしあなたが「20代のうちに圧倒的なスピードで打席に立ち、自らの手で事業をドライブしてキャリアを切り開きたい」と考えているのであれば、成熟企業特有の構造を理解しておく必要があります。それが「順番待ち」です。
成熟企業では、ビジネスモデルが安定している反面、すでに上のポジション(課長、部長、あるいは新規事業の責任者)の椅子の数が決まっています。ポストが詰まっているため、どれだけ個人として優秀であっても、「大きな意思決定を伴うプロジェクトの責任者」という打席が回ってくるまでに、数年単位の「順番待ち」が発生することがざらにあります。
一方で、もしあなたが「若いうちから打席に立ち、失敗も含めた打席数を最大化したい」と望むなら、あえて椅子の数が高速で増え続けている「成長企業の山」を選ぶという道が、強力な選択肢として浮上します。
「打席」がもたらす、キャリアの圧倒的な複利
成長企業、あるいは1→10、10→100のフェーズにあるスタートアップやメガベンチャーでは事業の拡大スピードに対して、常に優秀人材を求めています。昨日までなかった新しい組織、新しいプロダクト、新しい海外拠点が次々と立ち上がります。
つまり、「人が足りないから、能力のある若手に打席を渡さざるを得ない」という環境が強制的に作られているのです。
もし、あなたが「早くから裁量を持って勝負したい」という志向性を持っているなら、
- 年間予算数千万円の既存ビジネスをミスなく回す「順番待ちの1年」を過ごすか
- 数億円規模の新規事業の立ち上げ、あるいは組織マネジメントという「修羅場の打席に立つ1年」を過ごすか
この「1打席の重みと数」の差が、30代を迎えたときに、職務経歴書の深みとして大きな差になって現れます。市場価値とは、「どれだけ長く会社にいたか」ではなく、「どれだけ意思決定の打席に立ち、成果を上げる再現性を身につけたか」で決まる側面があるからです。
決めるのはあなた。キャリアのハンドルは常に自分が握る
ここまで、キャリアの原理原則と市場のリアルな構造についてお話ししてきました。
繰り返しになりますが、キャリアにおいて「大手企業でじっくりと大きなアセットを動かす経験を積むこと」と、「成長企業で圧倒的な打席数をこなすこと」のどちらが正解ということは絶対にありません。これは善悪の議論ではなく、「あなたがどんなキャリアを歩みたいか」という価値観のマッチングでしかないからです。
今の環境でしか得られない信用やスキルを徹底的に磨き上げることも、非常にスマートで堅実な戦略です。
ただ、もしあなたが、 「自分の理想とする成長スピードと、今の環境の打席数にズレがあるかもしれない」 「一度、自分が持っているカード(アセット)が、外の市場でどう評価されるのか知っておきたい」 「自分が目指したい将来像が現職で叶うのか不安」 と思うのであれば、情報収集や選択肢の棚卸しを行うアクションだけは、起こしてみて損はありません。
なぜなら、先ほどお伝えした通り、あなたが自分の意志で、最も有利に、幅広い選択肢からカードを選べるタイムリミットは、確実に変化していくからです。