寄稿エージェント:島田 亮
はじめに:看板を外したとき、あなたに何が残るか
「自社の製品は業界シェアも高く、品質も良い。だから売れる。でも、もしこの看板がなかったら、自分に何が残るのだろうか?」
これまで多くの中堅・若手メーカー営業の方々と向き合ってきましたが、20代後半から30代前半にかけて、この「漠然とした焦り」を抱く方は少なくありません。メーカー出身の私もその一人でした。特に、地道な努力で現在のポジションを築いてきた自負がある方ほど、製品力という「既製品の武器」に頼り切っている現状に、どこか物足りなさを感じているはずです。
直近企画職への相談を考えているという相談が多くなっていますが、仮にそのキャリアを叶えるために今あなたが手にすべきは、製品スペックに依存しない「課題解決の型」です。そして、最終的に「事業を動かす企画職」としてキャリアを形成するためには、一段飛ばしの転職ではなく、「無形サービスの営業」という関門を経てから企画職へ転身するという、戦略的な二段構えのキャリアパスが、最も確実で市場価値を高める近道となります。
なぜ「いきなり企画職」よりも「まず無形営業」なのか
メーカー営業から、「企画職」への転換を希望する方は多いですが、未経験で挑戦するには高い壁が存在し、適切なステップを踏む必要があります
優秀な企画を打ち出せる人とは現場で「何が売れ、何が顧客を怒らせ、何が意思決定の決め手になるのか」を肌感覚で知っていることです。
そのため、現在メーカーで営業としてキャリアを積んでいる方が企画職に挑戦するためには、
- ステップ1: IT・SaaS、HRなどの無形営業として、自分自身を「商品」にする経験を積む。
- ステップ2: 現場で頻出する要望を深く理解した状態で、社内の「企画・事業開発」へスライドする。
このステップを踏むことで、未経験職種への転職で年収を下げるリスクを最小限に抑え企画職に挑戦することができます。
メーカー営業が「無形営業」で手に入れる最強の武器
メーカーから無形営業(IT、SaaS、HRなど)へ移ると、最初に「売る武器がない」ことに戸惑うはずです。カタログスペックも、目に見えるサンプルも、物理的な納期もありません。
しかし、これこそがあなたの市場価値を再定義する最大のチャンスです。
- 「モノ」の営業: 既にある製品を、顧客のニーズに「当てはめる」
- 「無形」の営業: 顧客の課題を「定義」し、解決のプロセスを「提案」する。
無形営業では、あなた自身の「思考プロセス」と「介在価値」そのものが商品になります。特にHRやSaaSの領域では、顧客の組織課題や業務フローに深く踏み込む必要があります。ここで「なぜ他社ではなく自社なのか?」を突き詰める経験が、後の企画職への挑戦における重要なポイントです。
この無形の営業を経験して得られるスキルが「事業を作る力(企画力)」へと変換されるときが、優秀な企画職への第一歩になります。
社内転身を成功させる、営業現場での「プレ企画」活動
無形サービスの会社に入社した後、単なる「数字を追う営業」で終わってはいけません。営業をしながら、「企画職としての実績」を社内で作り始めることが重要です。
社内で企画職への異動を実現している方は、共通して以下の動きをしています。
- 負の遺産の言語化: 「現場でなぜ失注したのか」をデータ化し、プロダクトやサービスの改善案として企画部署へフィードバックする。
- 営業プロセスの標準化: 自分一人が売れるのではなく、チーム全体が勝てるための「営業型(型化資料やトークスクリプト)」を自ら企画・作成する。
- 横断プロジェクトへの越境: 営業の枠を超え、マーケティングやカスタマーサクセスとの共同プロジェクトに自ら手を挙げる。
これらはすべて「企画」の仕事そのものです。営業として圧倒的な信頼を得ながら、こうした「仕組み化」の提言を行うことで、会社側から「君は現場よりも企画で力を発揮してほしい」という指名オファーを引き出す。これが、最も賢明かつ高待遇を維持したままのキャリア転換術です。
無形営業から企画職へ移るべき転換のサイン
無形営業へ転身した後、「いつ企画職へ舵を切るべきか」というタイミングの見極めは、その後のキャリアの伸び代を左右する極めて重要な要素です。
まず、入社1年未満といった早すぎる転換は難易度を格段に上げます。企画職に求められるのは「現場への深い洞察」と、成果に対する「再現性」です。少なくとも通期(1年間)を通して高いパフォーマンスを維持し、現場での成功体験を自らの血肉に変えるプロセスが不可欠です。
一方で、決断が遅すぎても機会を逸してしまいます。30代後半を過ぎてプレイヤーとしての営業経験のみが長期化すると、市場からは「営業マネジメント候補」として固定され、柔軟な発想や実務スキルが求められる「企画職」へのジョブチェンジの門戸が狭まってしまうのが現実です。
具体的な狙い目は、「自分個人の売上の作り方を言語化・仕組み化し、チームの誰もが成果を出せる型を構築できたタイミング」です。属人的な営業から脱却し、組織としての勝ち筋を提示できた後に社内異動や企画職への打診を成功させる可能性が高いタイミングとなります。
おわりに:あなたのキャリアを「資産」に変えるために
「メーカーの営業しかしてこなかったから、ITや企画なんて自分には遠い世界だ」と決めつけるのはもったいないと考えています。むしろ、現場の泥臭さを知っているあなただからこそ、机上の空論ではない、血の通ったサービス企画ができるはずです。
キャリアの転換点は、誰にでも訪れます。しかし、それを「チャンス」として掴み取れるのは、今の自分に満足せず、武器を磨き直す覚悟を持った人だけです。
「うちの製品しか売れない営業」で終わるのか。それとも、「どのような環境でも価値を生み出せる、事業を動かす側」へ進化するのか。これまでの地道な努力を「確固たる実力」へと昇華させるための第一歩を、ここから共に踏み出しましょう。