人材業界出身者が「マーケティング」を起点にキャリアをピボットする最短ルート

人材業界出身者が「マーケティング」を起点にキャリアをピボットする最短ルート

寄稿エージェント:浅野 信介

人材紹介や人材派遣の最前線で、毎月厳しいKPIを追いかけ、トップクラスの成績を残し続けている。年収も上がり、社内での立ち位置も確立した。

しかし、ふとした瞬間に強烈な焦燥感に襲われることはないだろうか。 「30代になっても、ひたすらテレアポとスカウトメールを打ち、夜遅くまで面談を続けるプレイヤーでいるのだろうか?」

私の元にキャリア相談に訪れる人材業界出身者の多くが、この「キャリアのジレンマ」を抱えている。「ゆくゆくは事業の上流から関わるマーケティング職に挑戦したい」と語る一方で、「未経験で応募しても書類すら通らない」という現実の壁に絶望し、今の環境に留まり続けている方が後を絶たない。

結論から申し上げると、人材業界の営業経験者が、いきなり異業種の「マーケティング職」に転職するのは、極めて困難である。

しかし、ご自身の経験を正しく分解し、マーケティング領域へスムーズにピボットする「最短ルート」は確実に存在する。元大手人材紹介会社出身の立場から、本記事ではその具体的な戦略を紐解きたい。

なぜ「トップセールス」はマーケティングの面接で落ちるのか

人材業界でトップの成績を収めた優秀な方が、なぜマーケティング職の面接で見送りになるのか。

それは、面接官(CMOや企画責任者)が求めている能力と、転職者のアピールポイントに「決定的なズレ」があるからである。 営業出身者は往々にして「月間〇〇件の面談をこなし、気合いと行動量で目標を120%達成しました」と、個人の「突破力」を語ってしまう。しかし、マーケティング部門が求めているのは、気合いで売る力ではない。なぜ売れたのかを言語化し、属人性を排除して『誰でも売れる仕組み』を創る力(=再現性)」である。

「どれだけ頑張って売ったか」を語るのをやめ、「市場のボトルネックをどう特定し、どんな仮説検証を回したか」という「思考のプロセス」を語れるようにならない限り、マーケティング職への扉は開く可能性は限りなく低い。

キャリアをピボットする「3つの最短ルート」

未経験の壁を越えるための鉄則は、「業界(ドメイン知識)」と「職種(スキル)」の両方を一度に変えないことである。片足は自分の得意領域に残し、もう片足で新しい領域に踏み出す「交差点」を狙うべきであろう。

具体的には、以下の3つのポジションが、マーケティングへ向かうための強力な起点となる。

ルート1:HR Tech企業のBtoBマーケティング(ドメイン知識の横展開)

ある。彼らはデジタルマーケティングの知見はあっても、「現場の人事が何に悩み、決裁者がどう動くか」という解像度が低いため、リード(見込み顧客)を受注に繋げられず苦労している。人材業界での「生々しい顧客理解」というドメイン知識を武器に、マーケティング部門へ入り込む非常に勝率の高いルートである。

ルート2:事業会社の「採用マーケティング・採用広報」(スキルの横展開)

「人事」とひと括りにされがちですが、現在の採用活動は完全にマーケティングである。ターゲットのペルソナ設計、オウンドメディアでのコンテンツ発信、スカウト媒体のCVR(返信率)改善など、RA/CAとして日々行ってきた業務は、そのまま「採用マーケティング」として事業会社で高く評価される。ここを起点に、ゆくゆくはコーポレートPRや事業側のマーケティングへ染み出していく戦略である。

ルート3:急成長SaaSの「営業企画・SalesOps」(プロセスの横展開)

 営業組織の「仕組み化・データドリブン化」を担うポジション。SFA(営業支援ツール)のデータを分析し、営業の歩留まり改善やプロセス設計を行う。人材業界という「気合いと根性」が先行しがちな現場で、泥臭くKPIを管理し、人を動かしてきた経験は、絵に描いた餅になりがちな「営業企画」を現場に浸透させるための最強の武器になる。

職務経歴書を変える「スキルの翻訳術」

ターゲットが定まれば、次はこれまでの営業経験を「マーケティングの言語」に翻訳してレジュメに落とし込む。これまで無意識に行ってきた業務は、視点を変えれば立派なマーケティング活動である。

①スカウト文面の改善

【翻訳前】 毎日100件スカウトを打ち、返信を増やした。

【翻訳後】 ターゲットのペルソナを再定義し、訴求軸を変えたA/Bテストを実施。結果、スカウト返信率(CVR)を〇%改善した。

②歩留まりの管理

【翻訳前】 内定承諾率を上げるために、候補者のフォローを徹底した。

【翻訳後】 選考ファネルごとの数値を分析し、一次面接後の離脱がボトルネックであると特定。面接官向けの要件定義シートを導入し、通過率を〇%向上させた。

③求人票獲得のためのヒアリング

【翻訳前】 企業の要望を細かく聞き、求人票を作成した。

【翻訳後】 顧客の潜在的な事業課題を抽出し、他社と差別化できる企業の魅力を定義して求人コンテンツに落とし込んだ。

このように、事実を変えることなく「見せ方」を変えるだけで、「マーケティング思考を持ったポテンシャル人材」としての魅力が浮かび上がってくる。

今日から現職で仕込むべき「マーケティングの実績」

もし本気でマーケティング職へのピボットを狙うなら、転職サイトを開く前に、今の会社で明日から始めてほしいことがある。それは、自ら手を挙げて「マーケティングの実績」を創り出すことである。

例えば、過去半年間に失注した企業リストを抽出し、「休眠顧客の掘り起こしキャンペーン(メルマガや独自セミナー)」を企画・実行してみる。あるいは、自部署のトッププレイヤーの商談録画を分析し、共通する「売れる型」をマニュアル化して組織に展開してみる。

今の「営業」というポジションの裁量を逆手に取り、こうしたプロジェクトを小さく回して「実績(ファクト)」を作っていただきたい。この数ヶ月の行動が、面接の場で「私はマーケティング思考を持っています」と語る際の、何よりも強力な証拠になる。