寄稿エージェント:松井 彰汰
銀行や証券でキャリアをスタートした20代の多くは、
「幅広く経験してきたけれど、自分の強みがわからない」
「どの業界でも通用するスキルがあるのか不安」
そんな声をよく聞きます。
金融業界は業界構造上、営業・融資・提案などを横断的に行う“ジェネラリスト的な色合い”が強く、専門性が見えづらくなりがちです。
しかし、この“広く俯瞰できる力”こそが、実は20代でのキャリア転換期に最も武器になります。
重要なのは、その経験を「業界×スキル×役割」の3軸で整理し、自分の市場価値を“構造的に再定義する”ことです。
業界:どの“変化の波”に身を置くか
金融出身者の次のキャリアとして近年増えているのは、SaaS・人材・コンサルティング・スタートアップなど、変化が早くデータドリブンな業界です。
金融業界で培った経験は、SaaS・HR・コンサルなどの提案型ビジネスと非常に親和性が高いです。
お客様の状況を丁寧にヒアリングし、複数の選択肢から最適な解決策を設計する力。
経営者や個人の将来を見据え、課題の本質を一緒に考える力。
そして、信頼関係を築きながら長期的に伴走していく姿勢。
これらのスキルは、SaaS・HR・コンサルなどのBtoB領域で求められる「課題解決型の提案力」と重なり、金融出身者が持つ“数字への強さ”や“誠実なコミュニケーション力”は、論理的思考と信頼構築の両輪で成果を出せる大きな武器です。
成熟業界から進化産業へ──変化を恐れず、自らの強みを活かせるフィールドを選ぶことが、20代での市場価値を最も高めます。
スキル:金融で得た“再現しづらい経験”を言語化する
金融で得た経験をそのまま他業界に伝えるのは難しい。
なぜなら、属人的な営業や組織の信用に依存する要素が多く、「何が自分の成果なのか」が曖昧になりやすいからです。
だからこそ、今の経験を「抽象化→転用→再現化」の順で整理することが大切です。
前職での経験を踏まえると、金融業界で培ったスキルは“商品を販売する力”にとどまりません。
たとえば、生命保険の提案経験は「お客様の課題を深く理解し、最適な解決策を組み立てる力」。
代理店や社内の関係者と連携して成果を出した経験は、「複数の関係者を巻き込み、物事を前に進める力」。
ライフプラン面談で顧客の将来設計を支援した経験は、「理想状態を一緒に描き、行動に変える力」と言い換えられます。
つまり、金融での経験は“モノやサービスを提案するスキル”ではなく、
「人や企業の課題を構造的に理解し、最適な未来をデザインする力」として再定義できるのです。
キャリアの再現性は、“経験の再現可能性”ではなく、“価値提供の再現性”で語ること。
この視点があるかどうかで、転職の幅は大きく変わります。
役割:営業の延長線上にある“価値創出ポジション”を狙う
金融出身者がSaaS・HR・コンサルティングなど成長産業で担うべき役割は、
顧客理解を起点に、課題を言語化し、再現性ある提案を通じて事業価値を創出することです。
金融営業で培った「数値分析力」「提案設計力」「信頼構築力」は、
単なるモノ売りではなく、顧客の意思決定を支援するスキルとして高く評価されます。
特にSaaSや人材業界では、顧客の業務課題を可視化し、
最適なソリューションを設計する課題解決型営業が求められており、
金融で成果を出してきた人ほど、構造的な営業思考を活かして早期に成果を出しやすい環境です。
その先には、営業の延長線上にある“価値創出ポジション”――
事業開発・マーケティング・経営企画・カスタマーサクセスなど、
「顧客理解を基点に価値を設計する職種」へのキャリアパスが開けています。
営業を“終わりのキャリア”ではなく、
顧客課題を軸にビジネスを設計できる人材として磨いていくことが、
20代のうちにキャリア資産を一段引き上げる鍵となります。
3軸を掛け合わせる「転職ポートフォリオ」という発想
業界・スキル・役割の3軸をマトリクスで整理し、
“どの業界で、どんなスキルを、どんな役割で発揮するか”を可視化する。
これが、短期的な転職成功にとどまらず、
中長期的に「年収・裁量・やりがい」を最大化する戦略の考え方です。キャリアは“積み上げ”ではなく“設計”です。
金融出身という基礎体力をどう翻訳し、どの市場に置くかでキャリアの伸び幅は大きく変わります。