今一度正しく理解しておくべき「SaaS」

今一度正しく理解しておくべき「SaaS」

寄稿エージェント:石井 秀平

「SaaS」という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。「Software as a Service」の略で「サーズ」と読む。今回は改めて「SaaS」とは何かについてご紹介したい。

ユーザー・ベンダーそれぞれから見たSaaSの特徴

SaaSとは、提供者となるベンダーのクラウドサーバー上にあるソフトウェアをユーザーがインターネットを経由して利用できるプロダクトを指し、利用量やサービス内容に応じた月額課金制、いわゆるサブスクリプションモデルを採用しているケースが多い。

対義語はオンプレミス(On-premises)であり、ベンダーがユーザーにソフトウェアを納品し、一括で対価を受け取る。

ここ数年では、営業、マーケティング、人事、経理、プロジェクト管理といったBtoB領域におけるSaaSの利用が進んでおり、例えば、SalesforceやServiceNowを導入している企業は大企業だけでなく中小企業でも急増した。

SaaSが注目されているのは、ユーザー視点でもベンダー視点でもビジネスモデルの特徴から得られるメリットが双方ともに大きいからだ。

ユーザーの視点から考えてみると、使用分や利用サービス内容に応じて課金され、基本的にはいつでも解約できるため導入のハードルが低く、使用可能な機能がビジネス要件を満たしているか確認してから本格導入することもできる。

また、クラウド上のサービスのため、随時アップデートされた最新のソフトウェアを使用することができ、オンプレミスのサービスよりもアップデートの頻度は高いため、品質改善のスピードも速い。

ベンダーの視点から考えてみると、ユーザー1社あたりの価格帯が低いため見込み客のマーケットが広くなる。導入企業の例示、サービスのデモ、トライアル期間での使用など、サービス導入時の柔軟性も高い。

また、契約期間全体の売上からみると、サブスクリプションモデルの特徴から使い続けてもらえば、オンプレミスよりも高い収益を上げることも可能だ。中長期的な売上予測も立てやすくなるため、事業計画も地に足が着いた堅実な計画を立て、スタートアップでも資金調達がしやすい。

SaaSがもたらしたカスタマーサクセスという職種

SaaSの登場によって、その必要性が増した職種がカスタマーサクセスだ。もちろん、SaaSが登場する前からサービスを導入した後にクライアントのニーズ・改善要望を吸い上げ、開発チームにフィードバックするという役割があったと思うが、明確に職種としての意味付けがされた。

オンプレミス型では、売上を構成する要素としてライセンス費用よりも導入コンサルティングや運用費用のほうが大きく、導入期間も年単位が一般的であった。

ユーザーからすると導入するにあたり大きな投資を行っているので、想定と違いギャップがあったとしても使い続け、ベンダーと一緒に改善していくという選択肢を取るだろう。

一方、SaaSは初期コストがオンプレミスと比較すると大きくないので、スイッチングコストが低いサービス、要するにやめやすいサービスと言える。

ベンダーからすると使ってもらうまでのハードルは下がったが、サービスを継続してもらうかは難しくなり、いかに長く使ってもらえるかがサブスクリプションモデルでは非常に重要である。

そこで、カスタマーサクセスの必要性・重要性が増しつつある。カスタマーサクセスはざっくり言えば、ユーザーに長く、満足してサービスを使い続けてもらうためのサポートを行う。

オンプレミス型のシステム導入の場合、ユーザーが大企業中心かつIT部門が窓口という場合が多かった。それゆえ、実業務で使用しているエンドユーザーとベンダーの距離が遠く、真のビジネスニーズがソフトウェアに反映されないということもあった。

SaaS型のシステム導入の場合、ユーザーは中小企業から大企業まで幅広く、採用しているケースが増え、IT部門を介さないこともあり、エンドユーザーとの距離も従来よりも近くなった。

標準機能としての基本的なサービスの使い方のサポートから細かい改善要望・ビジネスニーズなどをエンドユーザーから吸い上げ、開発チームにフィードバックを行う役割をカスタマーサクセスが担うことで、ユーザーに長くサービスを使ってもらえるようになる。

以上のように今回改めて「SaaS」についてご紹介した。AWSやAzureなどのクラウドサービスは発展を続け、規制の厳しかった金融業界でもデジタルトランスフォーメーションの中でクラウド化を進め、部分的にSaaSを使用することも可能になった。このような背景からも今後ますますSaaSの市場規模は拡大していくだろう。