対談エージェント:宗万 周平
新卒で野村證券へ入社し、投資銀行部門での経験を経て、現在は大手事業会社のM&Aチームで活躍されている岩井さん。
一貫してエネルギー関連のM&A業務に従事している彼のキャリアをお伺いすると、『人』と『数字』を軸とした価値観が見えてきました。
――――自己紹介をお願いします。
岩井 達也と申します。
新卒で野村證券に入社し、4年半投資銀行部門に在籍しエネルギー系のM&Aを主に担当していました。
現在は大手事業会社のインフラ関連の投資チームで働いていて、再生エネルギー関連のM&A業務を担当しています。
――――野村證券ではどのような仕事されていたのでしょうか?
素材・エネルギー・化学部門のM&Aを担当するチームに在籍をしていました。
M&Aアドバイザーとして、会社を買ったり売ったりするクライアントへのアドバイスを行っていました。年間3~ 5件程をコンスタントにこなしていましたね。
アナリスト~アソシエイトという職位でしたので、DD(デューデリジェンス)の取り回しからバリュエーション、様々な交渉のサポートまで一通りを経験しました。
――――いわゆる専門職の色が強い仕事ですが、4年半のご経験となると、どの程度のレベルでM&Aに関するアドバイスが出来るようになのでしょうか?
大抵のM&Aなら、十分に回せるようになります。
クライアントの財務責任者とも普通に話を出来るようになりますし、各分野の専門家と話をしてもある程度を理解できるレベルにはなりますね。
お悩み相談のような簡単なレベルは勿論のこと、ある課題に対してどの専門家に相談すれば解決できるのかっていうところも分かります。
あとはプロジェクト全体の状況を見て、どのように進めていくべきなのか等を自分で考えて提案したりもできるレベル、という感じですね。
細かい所で言えば、契約書交渉に関するアドバイスや、各個別の案件に対するバリエーション(企業の価値算定)、あるいは下のメンバーに業務を依頼するなど、M&Aに関連する業務を一通りはできるようにはなっています。
――――現職ではどのような業務を担当されているのでしょうか?
簡単にお伝えすると、再生エネルギー系の企業を買うための調査や分析を行っています。
エネルギー関連という性質上、5-15年のタイムスパンで見て、目標ROIを達成するために大きな予算を与えられてM&Aを行う部隊です。
再生エネルギーは海外企業が強いため、グローバル案件が殆どです。そのため、私自身もイギリスに駐在して業務に当たっています。
会社探しの基準では、『現時点で発電所を100個持っている会社』というよりは、『今後発電所を1,000個作ることが出来るような会社』を探すというのがポイントです。
――――なぜ新卒で野村證券選ばれたのでしょうか?
理由は大きく2つです。
一つ目が日本一だったから。実際に案件の経験数はかなり多くなりました。
もう一つは、インターンシップに参加した時に面白い社員さんにお会いして、『この人と働きたい』と心から思ったからです。
その社員さんは、数字に強くて、いつでもどれだけでも時間割いてくれて、インターン生の浅い質問でも、真剣に答えてくれるっていうような熱い想いのある人でしたね。
投資銀行にこだわって就活をしていたというわけではなく、最初はコンサルファームに行くつもりでした。その中で、インターンシップに行って心変わりしたので、「縁」もあります。
――――新卒当時は投資銀行に入ってこんな仕事がしたい、といったようなイメージはありましたか?
正直な所、入る前まではふわっとしていましたね。
クロスボーダーの大型M&A案件をやって、インターンで出会ったような優秀な先輩達に少しでも早く近づきたいというものがあったとは思うんですけれども…。
でも多分本当の所は、『自分の担当したプロジェクトが新聞に載るって格好良いよね』みたいな浅い考えだったような気がしますね(笑)
――――実際に入社してみていかがでしたか?
思っていたよりも楽しくて、思ったよりもしんどかったです。
しんどいというのは、仕事がしんどいというよりも先輩との実力差だとか、求められるレベルに対する自分の能力のなさとかそういったところが辛かったです。
仕事が多忙とか、そういったところは全く気にならなかったですね。
――――M&Aアドバイザリーに憧れる方は多いですが、実際にどれだけ経験すれば力がつくのでしょう?
難しい質問ですね…正直1、2年で身に着けるのは厳しくて、最低でも3年は必要だと思います。
良い案件と良い上司に巡りあえて、上手くいったら2年程で何とかなるかもしれませんが…。
M&Aアドバイザリーとしての一通りのスキルと経験、財務的な感覚が分かる、というレベルまで到達するのにはやはり3年ぐらいは必要だと思いますね。
基本的にM&Aアドバイザリーというのは3人から5人くらいのチームで仕事をします。
ですので、場合によっては上司や先輩が凄く優秀だと自分の担当業務が誰でも出来るような、単純に時間が掛かるだけのような仕事になることもあります。
本当に優秀な方の下で細かい所まで指導してもらって叩き込まれるという経験ができるかは大きな差になりますね。
――――振り返ってみて、野村證券で得たものって何かありますか?
ガッツ……ですね(笑)
本当にいい先輩の出会いと、M&Aに関する経験と知識は得られたと思います。
あとはシンガポールでの海外経験も積ませてもらい、難易度の高い案件にも巡り合えましたし、そういう意味ではいい箔を付けさせて頂いたと感じます。
――――そのような良い経験が出来ていた中でなぜ転職をしようと考えたのでしょうか?
今思うと、辛かったから。
辛いというのは労働時間とかではなくて、大好きな面白い先輩が退職したり、一緒に働いていて下から突き上げてくれるような優秀な後輩が辞めたりとか…。
なんていうか、一緒に働いていて良いなと思える人達が転職してしまったというのが半分以上ですね。
アドバイザーという支援側ではなくて実行する側に回りたいという点ももちろんありますが、正直な所でいくと、良いなと思っていた先輩や後輩が退職していった、というメンタル面が凄く大きかったと思います。
――――実行する側の企業は沢山あるかと思うのですが、その中で現職を選ばれたのは何故なのでしょうか?
まず前提としてエネルギー会社に絞って転職先を探していました。
再生エネルギーや新エネルギーを扱っているファンドと、後は電力に強い事業会社を見ていましたね。
私自身、環境エネルギー工学の理系院卒だったので、エネルギーとか環境というものに興味がありました。野村證券でもエネルギー絡みの案件をやらせてもらっていたので、『やるならエネルギー』というところは腹落ちしていました。
その中で、再生可能エネルギー系のアセットをトップクラスで持っている、とか色々細かいことはありますが、最終的には面白そうだなーと思ったからですかね。
企業を選ぶ時、規模が大きくて面白い案件に携われる環境を軸として考えていました。
面白い案件というのは、例えば普段やらない複雑なスキームを組むだとか、複雑な規制を潜り抜ける、みたいな…。
なんというか『今まで誰もがやったことがない』みたいな事に個人的には面白みを感じるんです。
『選択をしないリスク』の方が大きい
――――自分が携わる領域を絞ることを嫌がる方も多いかと思うのですが、なぜエネルギーに決められたのでしょうか?
そうですね、理由としては2つあります。
一つが他にあまり興味のある領域が見つからなかった、という点。
もう一つはエネルギーって絶対なくならないし、今後全てが再生可能エネルギーに代替されるとしたら市場規模は相当大きくなるだろうと考えていた、という点です。
好きだけど『数字』が伴わない仕事を続けるのは勿体ないと感じています。
また、自分が携わっていく領域を絞ることに関しては、『選択をしないリスク』の方が大きいという風に考えていました。
領域を絞る、これが一番稼げると思っています。
誰でも出来るような事や誰かが今までにやった事を真似してやっても多分稼げないと考えています。
――――将来何かやりたい事はありますか?
正直まだザックリしたところで迷っています。
イギリスから新しいものを学んで日本に持ち帰ってくることか…もしくはそのまま海外で働くのかで迷っています。
基本的に、再生エネルギーにしてもファイナンスにしても、ヨーロッパは日本の先を進んでいるので、そういった観点で何か新しい事を学べたら良いなと考えています。
生きがいになるそうなくらい面白そうなことをやる
――――キャリアにおいて大事にしていることを教えて下さい
『生き甲斐になりになりそうなくらい面白そうなことをやる』ですかね。
そのために、3つ考えている軸があります。
・学び続けられる
・この人達と働けて良かったと思えるチームで働く
・ガッツリ働けること
この3つですね。
新しい事を学び続けるのは面白いと思いますし、やはりどのような人と働くのか、という点も重視しています。
――――どのような質問をしても非常に適確な回答が返ってくるような印象を受けるのですが、この領域にはそういった方が多いのでしょうか?
そのように訓練されますね。
若手の頃に最低限の正確性を担保する為にこういった思考方法に誘導されるというか…周囲にそういう方が多いので勝手にそうなっていきますね。
――――それを学ぶ素養として、どのような能力が必要なのでしょうか?
…『かわいげ』ですかね(笑)
やはり最低限の地頭は必要にはなりますが、頭が良いというよりも、どちらかといえば素直で可愛いげのある方のほうが向いていると思いますね。
向いているという観点で加えてお伝えするとすれば、細かい人、特に数字に細かい人が向いていると思います。
職種はなんでも良いですが…例えばある数字が動くことで全体にどの程度のインパクトを与えられるのかとか、自分の関係者にどのような影響を与えられるのかとか、どこにでも数字っていうのはついて回るので、そういった数字感がボヤっとでも見えている人が向いていると思いますね。
知的体育会系の人、もしくは『大きいことって格好良いよね』という考えの人が楽しんでいると思います。
――――VIEWの結果では投資銀行が3位と出ましたがいかがでしょうか?
支援業、アドバイザーの方が向いているような感じですかね。
そして事業会社が軒並み下に出ていますね。
これだけ支援系の仕事が上位に表示されていて、VC(ベンチャーキャピタル)が一番下に表示されるというのは…よっぽど向いていないのでしょう(笑)
VIEWって、専門性が強い仕事をしている人にはさほど価値はないかと感じていましたが、『選択肢を見る』という点で良いかもしれないですね。
『自分はおおよそ何に向いているのか』を見るのに良いと思います。
――――お話をお伺いしていると、要所要所で『人』が軸になっていますね
そうですね。
先程お話した通り、若手の頃から業務の正確性を担保するために『数字』へこだわりを持つように育てられますが、やはり働くにあたって考えている軸を挙げるとすれば、『人』というものが出てきます。
死ぬ時には笑顔で、可愛いおばあちゃんと友達と子供、孫達、つまり沢山の『人』に囲まれて大往生するという昔からの夢があります。
これは今も変わっていないですし、これからも変わる事はないと思います。