寄稿エージェント:杉江 佳純
ITコンサルティングファームとは
IT系コンサルティングファームとは、IT活用を主軸にしながら企業の経営課題や組織課題を解決に導くコンサルティングファームである。業務スコープは、IT戦略立案から、テクノロジー導入、業務改善やコスト削減、更には近年事業会社内では急速にニーズが高まっているリスク・セキュリティ管理など多岐にわたる。今や企業の経営戦略策定にITやデジタル活用は欠かせないトピックとなっており、クライアントとなる事業会社からのIT領域でのニーズは高まり続けている。
ITファームの組織体制
高度な専門性を求められるケースが多い為、大規模ITファームでは、総合コンサルティングファームと同様、業界チーム(金融、通信メディア等)とソリューションチームのチームからなる「マトリクス型組織」が採用されているケースが多い。ソリューションチームの中にERPシステム特化のチームや、クラウドソリューション特化のチーム、近年ではITセキュリティ特化のチームが組成されるなど、企業を取り囲む環境要因の変化やクライアントのニーズに応じて、それぞれの領域での専門家が集まった組織がクライアントの課題解決に当たる。外資系ITファームではアクセンチュア、日系ITファームではアビームコンサルティングが代表的な事例である。一方で、「ワンプール制」を採用しているファームも一定数見受けられている。Dirbatoやビジョンコンサルティングなどが例として挙げられる。
ITコンサルタントとしての業務内容
ITファームの業務内容について、代表的なテーマについて取り上げたい。
ITグランドデザイン戦略
ITグランドデザイン戦略とは、企業や組織が持つITシステム全体を包括的に計画し、最適化する戦略のことを指す。現状のITインフラやシステムを評価し、問題点や改善の余地を特定し、経営目標とITの戦略的な要件を照らし合わせながら、長期的なビジョンに基づいたITインフラの計画を策定する。これには、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、セキュリティなど、様々な要素を総合的に考慮することも必要とされる為、難易度が高く幅広いIT知見や様々な領域でのプロジェクト経験が求められる。
ERPシステム
ERPとはEnterprise Resorce Planningの略であり、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」などを有効に活用することが目的である。従来では生産部・購買部・経理部といった各部署によって最適化された業務システムの活用が主流であったが、意思決定をよりスピーディーに、かつ正確に行うために各部署での情報を一元管理できるERPシステムの導入が進んでいる。
クラウドソリューション
従来は企業に物理的なサーバーを設置し、独自のシステムを構築するオンプレミス型が主流であったが、イニシャルコストの削減や、リモートワークなど働き方の変化を受け、サーバーを自社で所有することのないクラウドソリューションの活用が進んでいる。また、情報の重要度によって、オンプレミス型とクラウド型の両方を活用した「ハイブリッド型」の導入も進んでいる。
デジタルトランスフォーメーション
上に挙げた、システムやクラウド、ビックデータやAI、IoTなどあらゆるデジタル技術を活用しながら、業務プロセスのみならず製品やサービス、ビジネスモデル更には組織風土や企業文化そのものの根本的な変革を促す概念を指す。企業組織の様々な変革を行いながら、競争力向上を目指し、各企業がデジタル活用組織の新設や、ビジネスモデルの変革の必要性に迫られている。
PMO
PMOとはProject Management Officeの略語であり、全社的なシステム導入や統合などの大規模なプロジェクトにおいて頻繁に導入される手法である。コンサルタントがPMOの役割を請け負うことが多く、第三者的にプロジェクトの進捗管理やリスク管理、ステークホルダーとのコミュニケーションを行うことで、プロジェクトのゴールを見失うことなく円滑にプロジェクトを進捗させることが期待されている。
PoC
PoCとはProof of Conceptの略語であり、新しい技術やアイデアを検証する為の実証実験のことを指す。技術面においては、実際に試すことで有用性や実用性を検証することができ、アイデアの検証については、実際に機能するか、市場から受け入れられるかなどを検証することができる。新技術やアイデアをいきなり実施するのではなく、PoCのプロセスを経ることによって、事業会社は追加の施策や、改善案をより具体的に検討できるメリットがあり、コンサルティングファームがPoCのプロジェクトを提案することも多く見受けられる。
ITコンサルタントとして、IT知見を有しているのは当然のこと、施策を取り入れることによるビジネス的なインパクトや投資対効果の算定など、ビジネスとの「橋渡し」の様な役割が高い水準で要求される。
また、簡単ではあるが近年需要が高まっているトピックに関してもいくつか取り上げたい。
データ活用
顧客データや生産・購買データなどを活用し、クライアント企業の最適な意思決定や新規サービスの立案などにも寄与する領域である。また、クライアント企業におけるデータ活用組織の組成のプロジェクトなども存在し、企業活動におけるデータ活用は日に日に重要度を増している。
AI活用
データ活用と並んで2023年現在、一番のホットワードと言っても過言ではないのはAI活用であろう。アルゴリズムの選定やカスタマイズを行いながら、市場動向の分析や顧客行動の予測、リスク評価など様々な観点から事業会社の意思決定をサポートしたり、業務プロセスの自動化や効率化を高水準で実行することで、人的リソースの最適化にも役立てることができる。
セキュリティ
IT化が急速に進む中で、各企業が次に課題として抱えている領域がセキュリティの領域である。事業会社の課題として、セキュリティの専門家がいない、またその為に必要十分な対策を講じることが出来ていないケースが多い。自社の機密情報だけでなく、顧客情報を強固に保護するためにも、各社が早急に手を付けたい課題のひとつである。
コンサルタントとして自身の専門性を確立しながら、上記の様な需要が高まっている領域に関しても、一定の知見やプロジェクト経験を積んでいることが、コンサルタントとしてのキャリアを歩む上で必要不可欠である。
代表的なITファーム
アクセンチュアは、日本だけでなく世界各国でプレゼンスの高いITファームの代表である。1953年米国での創業から、現在では世界50カ国200都市に事業を展開し、全世界では約72万人(2022年時点)の従業員を抱える世界最大のITファームである。日系企業で代表的なITファームとしてはアビームコンサルティングが筆頭だろう。支援の特徴として、グローバルスタンダードに当てはめていくのではなく、日本企業のカルチャーを理解した上で、経営・IT戦略から、BPR、システム導入やアウトソーシングまで一気通貫で支援が可能である点が挙げられる。日本電気グループの一員であることから、安定した経営基盤が確立されていながら、米国ERPパッケージ企業であるSAPとの業務提携に力を入れており、SAPのグローバル展開案件に関しては豊富な知見とノウハウを有している。