寄稿エージェント:蔭野 正人
印刷・出版業界は、かつては10兆円産業とも言われ、戦後の日本の主要産業として経済成長をリードしてきた。だが1990年の末から出版不況と呼ばれ、いまだに悪化する一方だ。
今回は、印刷・出版業界の現状と今後の展望について解説していく。
印刷・出版業界の現状
ペーパーレス化や出版物離れに伴う国内の需要縮小
印刷業界の国内需要は急激な縮小傾向にある。背景としてはペーパーレスが推進される時代の流れがあり、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけにリモートワークが急速に普及したことで、それが加速化したことが大きな要因としてあげられる。
オフィス需要のある書類などの影響は大きく、年玉手帳やカレンダーなどの生産は大幅に落ち込みを見せている。生協やスーパー・百貨店等でも販促チラシはデータ化が進んでいる。
また、主要な購買層の高齢化により若手ユーザーの獲得に失敗した新聞や週刊誌などの定期刊行物の閲覧者は年々減少しており、全体的に部数減や合併が続いている。
教育業界における参考書や教科書のデータ化も進んでおり、これも印刷業界においては大きな痛手である。
原燃料高による生産コスト増
世界的なインフレに伴い石油・石炭等の化石燃料を中心とした原燃料高騰が止まらない。サプライチェーンの元となる製紙業界においても原燃料高騰による生産コスト増が問題視されており生産がひっ迫している状況だ。
出版不況により減少し続ける書店
出版物の販路として欠かせない書店が経営難に耐えきれず減少し続けている状況もある。対処法として新規販路の開拓として電子書籍や小ロット重版、Audiobookなどを模索している。
印刷業界における今後の展望
極めて厳しい状況が続く印刷・出版業界だが、その打開のために様々な改革がなされている最中でもある。
吸収合併とM&Aの活性化
規模拡大とコスト圧縮を目的にM&Aや資本提携に取り組む企業が、大手を中心に見受けられるようになってきている。
後継者問題や足元の人手不足など、厳しい時代を生き残るためにはM&Aが難しい中小企業も、自社リソースで不足している領域は、他社との業務提携や協業を進めることで対応している。
SDGsへの参画
SDGsの熱が高まっているなか、印刷業界もSDGsへの対応をどのようにして事業へ反映させているかが、企業の社会的価値を示す材料になる。そもそも、印刷・出版業界は書籍の大量生産と大量廃棄が大きな課題である。この対策としてデジタル化を導入するのが主流だ。
他にも具体的な取り組みとして、紙ストローの採用や紙製の製品パッケージの導入などを検討している企業からの受注や環境に配慮した新しい素材の開発に着手している。
官公庁や地方公共団体を顧客として抱える大手印刷会社や出版会社にとっても、SDGsへの対応は重要な要素となるだろう。SDGsは、現代が抱えている課題を網羅した指標のため、企業にとって将来的に起こりうるリスクを回避することにつながる。
事業の多角化
従来の受注生産型のビジネスモデルから脱却し、プロモーション企画、デザイン制作、EC支援など付加価値の高いサービスを提供する印刷会社にならなければ生き残れない。
印刷業でのノウハウを活かしたデザインやホームページ制作の実績を用いて多方面へのビジネス展開を成功させる必要が求められている。