寄稿エージェント:太田 知希
現代のビジネスにおいて、ITシステムの活用は日々重要度が増す一方だ。
業務効率化に効果的な「ERP」をはじめ、顧客管理に役立つ「CRM」やサプライチェーンの最適化を図る「SCM」など、さまざまなシステムが導入されている。
しかし、実際の現場ではシステムを開発したものの「結局使われていない」というケースが散見される。
せっかくシステムを開発したにもかかわらず、使われない原因はどこにあるのか。
本記事では、活用されないITシステムについて、事業会社視点から原因を解説し、ITコンサルタントの価値についても触れていく。
ITシステム導入の全体像
事業会社において、ITシステム導入の一般的な流れは以下の通りである。
システム企画・社内承認
達成したい目的に応じて情報を収集し、システムの方向性を定める
構想を練るだけでなく、予算の検討・社内への根回し・発注書(RFP)の作成なども行う
ベンダー選定・発注
自社開発をしない企業では、ベンダーに開発を依頼する
発注書をもとにベンダーが提案書を作成する
ベンダー側からの追加質問に回答し、実際に依頼するベンダーを決める
開発
開発自体はベンダーが行うが、事業会社側でも打ち合わせの参加やユーザー側でのテスト実施を行う
現行体制からの移行に向けて、必要なデータ作成・マニュアル準備・教育推進活動の計画なども行う
運用
システム自体の保守運用はベンダーに依頼することが多い
ITシステム導入の目的を達成するため、日々社内でシステムの活用や浸透・改善を行う
ITシステムの導入には、企画から運用に至るまで、複雑かつさまざまな調整や準備が必要となる。
また、運用後も日常的な保守業務や定期的な改善活動が欠かせない。
ITシステムを首尾よく導入し、運用を安定させるためには、一筋縄ではいかないことがほとんどだ。
なぜシステム導入が難しいのか
ITシステムの導入が時折困難を極めてしまう理由の一つに、各担当者の立場により目的意識(思惑)が異なることが挙げられる。
以下に、各担当者の立場と目的意識を例示する。
カテゴリ | 立場 | ITシステム導入への目的意識(思惑) |
A | ・経営者 ・クライアント | ・売上増加したい ・コストを削減したい |
B | ・事業部門担当者 | ・業務を楽にしたい ・ビジネス要件を達したい |
C | ・情報システム部門担当者 | ・自部門の運用を楽にしたい ・ITシステム導入にかかるコストを抑えたい ・ビジネス要件通りに設計したい |
D | ・開発ベンダー | ・効率的にシステムを開発し、自社利益を確保したい |
各々の目的意識が異なる状態でA→Dに移行すると、ITシステム導入の本来の意義が薄れてしまうのだ。
ITシステムの意義を共通認識するために、関係者が密にコミュニケーションを取ればよいと考える人もいるかもしれない。
しかし、コミュニケーションでは解決しない場合が多いのが実情だ。
なぜなら、関係者間でITシステム導入の知識レベルに差があるからである。
例を挙げるとすれば、以下のようなシチュエーションがある。
カテゴリAやBは、企業のビジネスや業務に詳しいが、ITの知識は乏しい
カテゴリCやDは、ITの知識や技術には詳しいが、企業のビジネスや業務は深く知らない
カテゴリ間で知識レベルに差があることで、うまくコミュニケーションが取れなかったり、適切な判断が下せなかったりする事象が発生する。
実際にITシステム導入の失敗事例には、次のようなものがある。
失敗事例 |
とある会社の経営層Aが「売り上げ増加のためにデータを活用したい」と考え、事業部門の担当者Bに依頼する。 |
↓依頼 |
事業部門の担当者Bは、環境を整えるにはDWH構築・AIやBIツールの導入が必要だと考え、ベンダーDに依頼する。 |
↓依頼 |
ベンダーDに対して、目的を達成するための手段としての「DWH構築・AIやBIツールの導入」のみが伝わっている。 Dは目的がぼやけた状態で、使いにくいシステムを開発してしまう。 |
上記のように関係者間で相談・発注する場合には、常に「前のカテゴリがどのような内容を希望していたか」をセットで伝える必要がある。
自分の立場からの考えだけを伝えてしまえば、目的がぼやけた状態で関係者に伝わり、使われないシステムができてしまうのだ。
ITコンサルタントの価値
ここまで、事業会社や開発ベンダーだけではITシステム導入をスムーズに進行することが難しい点を解説してきた。
この事情を踏まえ、近年はPMO(Project Management Office)の需要が増している。
PMOは、目的の形骸化を防ぎ経営課題の解決を支援していく役割だ。
PMOにはビジネスやITに関する知識はもちろん、事業会社と開発ベンダーそれぞれの事情を理解することが求められる。
お互いの事情を考慮した上で適切なコミュニケーションを促すことで、プロジェクト全体を滞りなく進めていけるのだ。
ただ、実情としてPMOの役割をこなせる人材を確保できている企業は少ない。
それゆえに、PMOの補佐もしくは代理として「ITコンサルタント」の需要が高まっているのだ。
ITコンサルタントはビジネスやITに精通しており、ITシステム導入の統括ができるため、システム導入・運用をしたい企業にとって欠かせない人材となる。
価値提供できるITコンサルタントの重要度は、今後も増していくだろう。