寄稿エージェント:中村 飛雄馬
金融業界で、銀行、保険とともに人気の高い証券会社。証券会社の新卒採用の大部分を占めるのがリテール営業職だ。実力主義の風土の中で、専門知識が必要な金融商品を扱う「証券営業マン」に対して、その営業力の高さから「順風満帆」なイメージを抱く人もいるかもしれない。
しかし、実際には多くの人がキャリアに悩みを抱えている状況にある。
今回は、「なぜ悩みを抱えているのか」その理由やキャリアパスについても紹介していく。
リテール営業の多くがキャリアに悩む理由
リテール営業職の多くが、キャリアに悩む理由は、大きく分けて3つある。
営業手法に不満がある
リテール営業は、一般的に顧客の相談を解決する「御用聞き営業」になりやすい。そのため、やりがいを感じにくいという声を聞く。
また、売り上げといった数字やノルマに追い回されることになる。よって、「本当に人の役に立っている」のかどうかを実感しにくい。
さらに、ノルマ達成のためには、見込み顧客に必要のないものをセールスしてしまうケースもあるだろう。
結果として、神経をすり減らしながら「信頼を失っているのでは」といった感覚を抱きやすいのも特徴だ。
「コンサルのような経営支援をしたい」という人にとっては、実際の職務内容とのギャップに悩むことになる。
十分なスキルが身につかない
証券の金融商品は、最新の社会情勢に合わせて常に変化をしている。そのため、商品知識をアップデートし続けなければならない。
また、自社の取り扱っている商品研修が常に実施される。よって、自社商品には詳しくなれるが、他社商品や金融全般の知識を得にくい。
結果として「専門性が身につかない」と感じることがある。将来的に起業したい人にとっても、起業に必要な知識を直接業務から得ることは難しいだろう。
リテール営業の市場価値と培われるスキル
まず、証券リテール営業の業務内容は、個人顧客向け(toC)に、無形商材を提案する営業であるというのが転職市場の一般的な認識だ。
転職を検討している人のなかには、「担当顧客には、法人も入っているので、法人顧客向け(to B)の営業をしている」という認識を持つ人も多いだろう。
しかし、実際には法人営業をしているというよりも、オーナー色が強い企業への提案をしているケースが目立つ。
このように、リテール営業の実態を深掘りすることで、証券会社で培われるスキルを把握できる。
なお、証券会社で培われるスキルは、ほかの業界でも十分応用が利くものばかりだ。ここでは主に、3つのスキルを取り上げていきたい。
営業力
金融商品という無形かつ顕在的なニーズが少ない商材を新規、既存双方に対して提案していく仕事は、toC営業において、最も難易度の高い仕事の一つである。
証券の個人営業は、個人客を相手に営業活動を行うため、土日や祝日を商談日にするケースも少なくない。
見込み顧客の仕事が終わった後の夜に、商談が始まることも多く、プライベートの時間が削られることもまれではない。
労働時間が長くなることで、体力的にも精神的にもタフさが身についてくる。また、大切な資産を預けるための信頼関係を築くことは、どの業界の営業職でも役立つだろう。
特に、無形商材を扱う業界の営業職において、評価が高い傾向にある。
意思決定者とのコミュニケーションスキル
仕事柄、カウンターパートが、経営者や経理部長などの意思決定者が多いという特徴がある。また、開業医や富裕層などコミュニケーション難易度が高いカウンターパートとの折衝経験は、転職市場において高く評価される。
目標達成への責任感、実行力
常に営業ノルマや目標数字と闘っているため、数字に対する責任感や目標達成のための実行力が評価されやすい。
さらに、「目標達成のためには月次で〇%の進捗が必要」と、目標を細かくスケジュールに落とし込むなど、定量的な思考力を持っていれば、転職の再現性はさらに高くなる。
リテール営業は、総合職的な業務が多く、一般的に専門性がつきにくい職種と言われている。よって、年齢を重ねると転職先の幅が極端に狭くなるのだ。
しかし、20代であれば、多様な業界へのキャリアチェンジの可能性が残されているため、早期に検討することをおすすめしたい。
証券リテール営業のキャリアパスについて
ここでは証券リテール営業からの転職事例を紹介していく。
投資銀行
企業の資金調達のサポートを行うIBDや、金融市場に関する知識をそのまま業務へ活かせるマーケット部門、企業の財務分析や市場のアナリスト業務など、投資銀行への転職が代表的だ。
より専門性が高い業務経験がある場合は、即戦力として高く評価される。
コンサルティング業界
コンサルティング業界は、「顧客に課題ベースの提案をしたい」という思いを持って志望する人が多い。
またリテール営業は、ビジネスパーソンとして必須であるドキュメンテーションスキルやキャッチアップ能力が身につく。
そのため、コンサルティング業界をはじめ、その後のキャリアパスも幅広く選択できるメリットがあるのだ。
投資ファンド業界
投資ファンド業界は、「実際の運用業務に携わりたい」「市場へのインパクトを高めたい」との思いから志す人が多い。
投資先の財務分析力や、正確な投資判断力などが求められるため、決して簡単なハードルではないが、魅力的な業界の一つといえる。
M&A業界
M&A業界は、中小企業経営者との折衝経験、目標達成のための実行力を活かして働くことのできる業界である。
また、売り手、買い手それぞれのニーズを正確に把握し、双方の折衝案を提示する思考力と案件を成約させるための実行力を身につけることができるだろう。
経営的な目線からの提案は高く評価され、次のキャリアで投資ファンドやCFOとして、企業の財務戦略を担う選択をする人が少なくない。
人材業界
「介在価値を求めたい」人が志す傾向にあるのが、人材業界だ。扱う商材が無形商材のため、企業・個人にとって最適な提案を行うことができる。
また、経営的な目線で、中長期的な成長戦略を話す能力は高く評価される。その後のキャリアとして営業、事業開発、人事を検討する人が多い。
無形営業
顕在的なニーズが少ない無形の商材を扱ってきた経験を活かし、無形商材の営業(IT、Webプラットフォーム系、広告)に、営業職として進む人も多い。
このように証券業界で培ってきた経験は、幅広い業界で応用できる。しかし、年齢を追うごとに選択肢の幅は狭くなってしまうだろう。
将来的な転職を検討しているのであれば、ぜひエージェントに相談し、一日でも早く転職活動を始めてほしい。