寄稿エージェント:栗林 繭
企業は何のために採用活動を行うのか。採用の目的は、主に2つある。
1つ目は、企業が掲げた企業理念と経営戦略を実現するために、不足している、もしくは不足すると予想される人材を補うためだ。
2つ目は、新しい人材を獲得することで、企業や組織を活性化し成長させていくためである。
今回は後者の、採用活動と事業成長との関連について詳しく解説していく。
採用市場の動向
近年、国内の採用市場は、売り手市場が続いている。特に業務の高度化によって、エンジニアなど、特定のスキルを持った人材へのニーズが高まっている。
2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響で、求人倍率は一時的な落ち着きを見せた。しかし、2022年以降は、企業は再び人材採用を活発化させている。
また、終身雇用制度の崩壊や長期的な労働人口の減少、ジョブ型雇用への移行も、人材獲得競争への危機感を高めている一因だろう。そのため、企業にとって中長期的に優秀な人材を確保することは重要な課題となっているのだ。
事業成長における採用活動の目的
業は、経営を行う際の軸である経営理念をもとに、到達したい未来像である「経営ビジョン」を策定し、それを達成するために事業計画を立てる。
事業計画をどのように推進していくかを示した「経営戦略」において、必要な人材の構成を検討・実行するのが、採用活動を含む「人事戦略」なのだ。
つまり、採用活動は、「事業計画と現実とのギャップを、人材を採用することで補完する活動」とも言い換えられる。
採用活動の位置づけについて確認したうえで、ここからは採用活動の目的について述べていく。
会社を成長させるための人材を見つける
企業は、経営と事業計画を達成し、利益を生み出すことが求められる。よって、その目標に向かって一緒に向かっていける人材や、目標達成や事業成長に必要なスキルを持っている人材、また将来性がある人材を採用する必要があるのだ。
採用後のミスマッチをなくす
会社と候補者のミスマッチを、採用前になくしておくことが、採用活動2つ目の目的といえる。
採用活動では、企業理念や求める人材について的確な広報ができていないと、求める人物像とは異なる人材が集まり、結果として採用後のミスマッチが生じる危険性がある。
また候補者側も、入社後に能力を発揮できなかったり、働きにくさを感じたりと、結果として離職してしまう可能性も考えられる。
このような双方のミスマッチをなくすためにも、採用側が目的をしっかりと明示した上で、採用活動を行う必要があるのだ。
採用戦略の描き方
また、採用戦略の描き方は、会社ごとに違いがある。
例えば、A社、B社、C社が、全く同じ従業員数で、売り上げが同規模だったとしても、目的が違えば描き方も変わってくる。
具体的には上場を目指しているのか、あるいは企業売却を考えているのか、それとも大きくするつもりはなく、細く長くでも地場に根付いていきたいという希望があるのかによって今とるべき戦略は異なってくるのだ。
例えば、上場を目指していきたいA社であれば、これまで外注していたリソースを、自社で内製化していく必要がある。
また、売却を目指しているB社であれば、経理部門は売却先に必ず存在するため、管理部門を増やしていくよりも、企業の売り上げに直結する営業部門を充実させていくほうがよい。
売り上げが上がれば、当然企業価値も高まっていくからだ。
さらに、細く長くとの希望があるC社は、長期的な経営を見据え、後継者として経営ができる人材を採用する必要がある。
それらを踏まえた上での採用戦略を描き、どのような人材を確保するかという人事戦略を決定するのだ。
人事職・リクルーターの魅力
ここまで述べてきたように、採用活動というのは、経営や企業の成長に密接に結びついたものだということが理解できただろう。そこで、ここからは人事職とリクルーターというポジションの役割とそれぞれの魅力について述べていく。
人事職の場合
人事職は、目先の人員補充のために仕事をしているイメージがあるかもしれない。しかし、実際には経営という視点から、採用・育成・配置・労務と人員戦略を描く仕事といえる。
だからこそ会社の方向性やビジョン、カルチャーなど、会社が重要視しているものを深く理解する必要がある。
また、それらを採用基準に落とし込み、ビジョンを押し上げてくれるような人材に仲間になってもらえたときには、この仕事の面白さを実感するだろう。
双方がよかったと感じることで、初めてよい採用ができたといえる。
リクルーターの場合
リクルーターの仕事は、バックオフィスではあるものの営業職という側面もある。
数字を追うことはもちろんだが、候補者が転職活動で 叶えたいキャリアや、ニーズを的確につかむことが大事になる。
また、自社においてそれらのキャリアやニーズがいかに実現することができるのか、訴求を行い、他社に負けないような内定承諾までのクロージングを行う。
実際にコンサルファームでも、中途採用リクルーターは、営業実績がトップの人が抜てきをされるような重要な役割である。
そのため、人材の領域で実力をつけていくためには、リクルーターというポジションから始めてみるのもよいだろう。
「人事」や「採用」というと「ひとや会社への想い」「ホスピタリティ」といったイメージが強いかもしれない。もちろんこれらのキーワードが、目の前の社員や転職者・就活生と対面する際に、根底にあることは間違いないが、それだけでなく「経営」「戦略」などビジネス的な視座が強く求められることも分かっただろう。
本記事が、読者にとって採用や人事の新たな側面を知るきっかけになればうれしく思う。