寄稿エージェント:竹中 紫乃
旅行業界は、新型コロナウイルス感染症が拡大する以前は、文系就活生・人気企業ランキングの1位を獲得したこともあった。
また、人気企業ランキング上位50位には、大手旅行会社が数社ランクインするほど人気が高かった業界なのだ。さらに、訪日外国人旅行者数が伸び続けており、2019年には3,188万人と過去最高を記録した。(日本政府観光局 JNTO調べ)
この結果はアジアにおいては、中国とタイに次ぐ第3位の観光客受入数となっている。しかし、活況を呈していた旅行業界に新型コロナが直撃し、様々な変化を迫られた。
本記事では、コロナの影響を大きく受けて変化していった旅行業界の今を詳しく解説していく。
旅行業界が変化を求められている理由
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、大きな打撃を受けたのが旅行業界だ。移動制限や旅行自粛の風潮の影響を受けたことはもちろんのこと、人々の生活様式が変化したことも追い風となって、旅行業界では様々な変化が求められている。
販売チャネルの多様化
昨今の個人旅行においては、カウンターでの相談でなく、実店舗を持たずにネットだけで予約を請け負う、OTA(Online Travel Agent)と呼ばれるネットでの予約が主流になってきた。特に、インターネット系の旅行会社は、スマートフォンの画面操作だけで、予約や料金比較ができる簡便さと、旅行代金の安さが魅力となっている。
さらに、対面での販売員とのやり取りが不要な点も利用者から評価され、若い世代の旅行予約チャネルの大きな一端を担っている。
ここ数年で実店舗や紙パンフレットを廃止した旅行会社も多く見受けられる。それだけネットでの予約に移行する旅行者が多く、旅行会社のカウンターに足を運んでパンフレットをもらい吟味して旅行の予約しに行く時代から、ネットで条件を登録しながら検索して予約する時代へと変化してきているのだ。
そのような変わりゆく、販売員が必要とされるためには、プロにしかできない付加価値を、旅行者へ提供することが求められる。
特にネットでの購入は、旅行代金だけをみると非常に割安だ。かつ、行先や旅の目的、予算などの条件が明確な場合は、ネット購入の恩恵は多くなりやすい。
一方で、旅行者の不安や疑問を解消する手段がないことや、「カスタマイズ性の低いパッケージ化された商品」の提供がメインになることが多い。
だからこそ、対面での販売において、幅広い知識を提供し旅行に向けての楽しみを醸成したり、旅行者の要望に応じた、きめ細かいオーダーメイドプランを作成することのできるプロの販売員も求められてくるだろう。
旅行業界のDX化
新型コロナウイルス感染症拡大以前から、旅行業界はすでに旅行のDX化を推進し始めていた。ただ、新型コロナの出現は、この動きをさらに加速させたと言えるだろう。
例えば、新型コロナの感染拡大によって、旅行業界を含めた観光業が大打撃を受けた一方で、国際的移動の制限と経済の不景気に対して、JTBなど旅行大手が「オンライン旅行」という新たな旅行形態を打ち出したのだ。
このように旅行業とIT技術の組み合わせは、旅行業界にさまざまな可能性をもたらした。
現在導入されている旅行とITを基軸にした新たなサービスは、以下のようなものがある。
- 旅行情報の整備
- 企業マーケティングの意思企決定
- オンライン旅行
旅行情報の整備
技術の発展とともに、紙の旅行パンフレットなどの持ち物を不要だと思うツアー客が、多くなってきた。このような不満は、DXの推進によって解決できる。観光施設、交通、観光地などの情報をすべてデジタル化すれば、オンラインでの情報整備が可能となるのだ。
結果として、スマホを持つだけで、どこでも、いつでもすぐに情報を快適に手に入れることができる。また、情報のデジタル化によって、よりよい旅行実体験を提供することが可能になる。
企業マーケティングの意思決定
旅行企画を考える際に、どの観光地が人気なのか、また年齢別に行きたいところはどこか、といった旅行市場のニーズを全体的に把握する必要がある。これらが分かれば、誰のために、どのようなターゲット層のニーズに合わせて、企画を考えればよいのか把握できるようになる。
ネット上で、それぞれの機関、組織、政府などのオープンデータが公開されているため、データ抽出技術を通じて、人気のある企画を打ち出すことに役立てられるだろう。
オンライン旅行
オンライン旅行は、インターネットでの「旅行疑似体験」を通じて、ユーザーの旅行意識の醸成と旅行ニーズを喚起しようとする試みだ。この新たな旅行形態に対しては、コロナ以降の旅行業再開の「予習旅」だという意見がある。また、根本的に旅行業を変える変革だと捉える向きもあるほどだ。
旅行業界の展望と変化の兆候
今後はどのような事業モデルであれば、この厳しい旅行業界を生き抜くことができるのだろうか。これからも旅行会社の人員削減や店舗縮小は進むと考えられる。また、一人当たりの業務量過多や需要と供給のバランスにも懸念が残る。よって、「IT×旅行」が台頭してくるだろう。現在、海外旅行客の予約は70%以上がOTA経由だといわれている。
今後の需要や時代の流れを鑑みても、海外旅行客に限らず、国内旅行でもネット予約がメインになることが容易に予測できる状況だ。
さらに、国内外ともに、オンラインツアーやVRでの旅行体験が増えており、内容も多様化しつつある。景色を楽しむだけではなく、実際にオンライン上で現地の土産物店に入り、自分の好きなものを買って、郵送できるサービスも出てきているのだ。
もちろん、直接現地で体験することが一番の旅行の魅力であることに変わりはない。しかし、旅行のあり方が多様化していることは今後の業界発展を考える上で無視できないだろう。
ITを駆使して始める新サービスと、以前から旅行会社に蓄えられた知識やノウハウをかけ合わせることで、新たな旅行パックの発信や、旅行者の状況に応じたアドバイスが可能になるだろう。
これらの変化に伴い、今後の旅行業界に必要な人材も多様化していくだろう。今までは顧客志向や旅行への想いを持つことが前提条件になっていたが、今後はIT・AI領域も担える人材が旅行業界を押し上げる要因になることは言うまでもない。
今後の旅行業界に求められる人材像
IT・AI技術を持ち、今後の旅行業界を押し上げることのできる人材が必要であると述べたが、もちろんそれだけではなく基礎となる土台を築くことも大切だ。就職・転職する際は、やはり旅行業に関する資格取得も視野に、知識や技能を身につけておくのも一つだろう。
旅行会社への就職や転職に活用できる資格や検定は、以下のようなものがある。
- 国内旅行業務取扱管理者
- 旅行地理検定
- 観光英語検定
- 京都・観光文化検定
- サービス接遇検定
これらの検定や資格を取得することで、旅行や観光に関するさまざまな知識を身につけることができ、就職してからも即戦力として働くことができるだろう。もちろん資格取得が目的になってはいけないが、キャリアの選択肢を広げる意味でも役立てていただきたい。
現在は新型コロナウイルス感染症の影響で、新卒・中途ともにほとんどの旅行会社の採用が縮小傾向になっている。
今後コロナが終息し、またインバウンドがやってくることで、改めて旅行業界に活気が戻ることを期待したい。