寄稿エージェント:山上 訓平
自身が入社する会社については、定性的な口コミや評価以外にも、定量的にその会社が健全な経営を行っているか、正確に分析しておく必要があるだろう。
そのための手法の一つが、企業の現状や課題を決算書から把握できる財務分析だ。
本記事では、転職活動を有意義に進めるために活用すべき財務分析のポイントについて、解説していく。
企業選定する上での財務分析のポイント
財務分析とは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の財務三表(決算書)を活用して、会社の状態や今後の見通しを分析することである。
なお、企業の生命線ともいえる、キャッシュの動きを記載したCF(キャッシュフロー)計算書について、公にしている会社は存在しない。
そのため、主にPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)での簡単な分析方法を押さえておけば、問題はないだろう。
BS編
そもそも貸借対照表とは、ある時点での企業の資産、負債、資本の状態を示した資料である。
具体的なイメージとしては、会社を毎年、健康診断してみた結果だと想像してもらうとわかりやすいだろう。
これらは総資産の金額と、負債と資本を合算した金額が必ず一致するようになるため、バランスシートといわれている。
財務分析の一つの方法としては「安全性分析」がある。安全性分析とは、その企業が短期的に、倒産のリスクを抱えていないかどうかの健全性を判断するための分析である。
それでは、安全性分析で活用すべき指標について解説していきたい。
流動比率
流動比率とは、貸借対照表の流動資産を流動負債で割ったもので、会社の支払い能力など短期的な安全性を判断する指標だ。会社はさまざまな資産を保有しているが、その資産のなかで流動性が最も高い資産といえば現金となる。なぜなら、現金はそのまま支払いに使うことができるからだ。
また、売掛金も回収した時点で現金化するので、流動性が高い。流動性が高いほうが、健全であるといえるのは、有事の際にキャッシュ化をして、経営環境の悪化に対応できるためである。
このように、資産に占める流動性が高ければ高いほど、健全であるといえる。
なお、流動比率の算出方法は「流動資産 ÷ 流動負債 × 100」で算出し、200%を超える比率があれば優秀と評価できる。
自己資本比率
会社の長期的な安全性を判断するために用いられる指標が、自己資本比率だ。
自己資本比率は、会社の借金が適正な範囲なのかを判断する指標となり、「自己資本 ÷ 総資本 × 100」で求められる。バランスシート上の資産を、どれだけ自身の調達によって、まかなっているのかを判断することになる。
そのため、自己資本率が小さいほど、他人資本の影響をダイレクトに受け会社経営も不安定な状態に陥りやすい。
一方、自己資本率が高いほど経営状態は安定的であると判断できるのだ。また、自己資本には株式の発行によって調達した資本金や、これまでの経営における積み上げで培った、利益剰余金なども含まれる。
自己資本比率は、会社の規模によって水準は異なるが、50%程度あれば十分といえるだろう。
その他
財務で見るべきポイントは、調達したお金を、具体的にどのように使っているかだ。まずは現金がいくらあるのかについて、チェックすることになる。結果として、多ければ多いほどよいが、月商の3ヵ月程度を保有していれば問題はない。
また、有利子負債が、現金や売掛金などの流動性が高い当座資産の範囲内に収まっているかについても確認した方がよい。
この結果は、借り入れをできる体力があることを示す証明となる。よって、余力のある経営を行っていると判断できるだろう。
PL編
次に損益計算書から読み解く会社の安全性を示す指標について解説していきたい。
なお、損益計算書とは決算時に収益から費用を差し引いた利益を把握できる書類であり、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」と5つに区分されている。
収益性分析
営業利益率、経常利益率ともに、「利益 ÷ 売り上げ × 100」で算出できる。
これらの数値については、どれだけ利益を効率的に出すことができているのかを示す指標となるため、ぜひとも確認してほしい。
営業利益は本業で得た金額、経常利益は本業以外での恒常的な収支を含めた利益の金額となるため、トータルでの利益額となるからだ。これらは当然高ければ高いほど、優秀な経営を行っていると判断できる。特にポイントとなるのは、同業他社と比較した結果だ。
業界によっても、利益率が高い会社、低い会社があるため、絶対評価ではなく、相対的に比較をすることを意識してほしい。
売上高成長率
企業経営の主な目的は、利益の最大化である。利益を最大化させる方法は、シンプルに2つで、トップラインの最大化とコストの削減といえるだろう。
当然、コスト削減には限界があるため、トップラインである売り上げは伸ばし続けなければならない。特に直近5年程度で、どれだけ成長しているのかは押さえておきたい。また、絶対評価をしないということは、極めて大事だ。その際には、他社と比較してどうなのか、また、業界全体のトレンドとしてはどうなのか、という部分を捉えた上で、判断をする必要がある。
その他の財務分析ポイントについて
これまでは、主に公表をされているBSやPLをもとに分析する手法を紹介してきた。ここからは、十分な資料が存在しない場合における分析手法をご紹介したい。
資金調達
上場をしていない会社は、より多くの資金を効率的に調達したいため、VC(ベンチャーキャピタル)やファンドなどから、資金を調達するケースが多い。直近でも、数十億を超えるような大型の資金調達は、数多く行われている。基本的に金額が大きければ大きいほど、期待値の高いビジネスを展開している会社ということになる。
したがって、大型の資金調達を実施している会社は、財務についても長期までとはいわないが、安定しやすい傾向があるだろう。
株価
株価は、将来の期待値を現在価値に反映しているため、高ければ高いほど、今後伸びる可能性が高い。このあたりは、資金調達の考え方と似ているだろう。
ポイントは、短期での視点ではなく、できれば過去にさかのぼった上で、現在の数値がいくらであるのかについて、確認をすることが大切だ。投資家は、株価が上昇傾向にあるのであれば、中長期的に魅力的なビジネスを展開できると考える。また、下がっているのであれば、その逆ということだ。伸びていれば問題はないが、仮に下がっていた場合には、何かしらの事業上のリスクを抱えている場合もある。
そのため、カジュアル面談などで、実際にヒアリングすることをお勧めしたい。
転職における財務分析の際の注意点
現在はインターネットの発達によって、さまざまな情報を取得できる。しかし、当然ながら、そのすべてが正しい情報とは限らない。もちろん、事業内容やビジョンに魅力があったとしても、中身が追いつかずに、事業として成り立つ見込みのない企業も存在する。
そのようななかで、ベストなキャリアを選択していくためには、「数字」は重要な根拠となる。守りの部分を評価する財務分析や、将来性を表す株価や資金調達の内容を、少しでも理解できるようになれば、意思決定における重要な要素になる。
ぜひ、転職活動の際には、企業の財務分析を活用しながら、有意義に進めていただきたい。
なお、転職エージェントも活用いただければ、採用人材の情報や企業風土など詳細を共有できるため、併せて検討いただきたい。