寄稿エージェント:工藤 宏人
M&A市場は、年々拡大傾向にある。実はその対象のほとんどが非上場企業のため、正確な売り上げ規模を図ることは難しい。
だが、成約件数はこの5年で約3,000件から約4,500件へと増加している現状がある。また国内企業の半数以上は後継者不在であることから、後継者問題の解決の糸口として、今後もM&Aの需要は拡大し続けることは間違いない。
本記事では急拡大を続けるM&A市場の歴史、ビジネスモデル、その後のキャリアパスについて解説していく。
M&A業界発展の背景
まずは、M&A業界発展の背景について解説していく。
M&A業界の歴史
かつての日本では、企業を買収するという考え方そのものが一般的ではなかった。しかし、1980年代に入り、バブル期の経済力を武器に、ソニー社の米国映画会社の海外買収をはじめとするクロスボーダー型のM&Aが活発化してきた。
成長の背景
現在も国内のM&A件数は増え続けているが、その成長の背景は主に3点である。
①事業継承問題
一つ目は事業承継問題の顕在化だ。日本企業の多くは経営者の高齢化が進んでいるため、後継者不足に悩まされている企業が急増している。
よって後継者が見つからない場合は、第三者に売却するケースが増えてきているのだ。
②小規模案件の増加
二つ目は、小規模案件の増加だ。以前は、外資系ファンドが買い手になるような大型のM&A案件しかなかった。しかし、M&Aによるメリットが世間に認知されたことで、1,000万円以下の小規模案件が増加し、個人事業主や起業希望者などが新たに買い手に加わってきている。
③M&Aプレーヤーの増加
三つ目はM&Aプレーヤーの増加だ。
以前は、大規模なM&Aのみを扱う金融機関しかなかったが、中小企業含めて支援企業が増加したためにM&Aが活用されやすくなった。よって、今後もM&A市場は拡大することが見込まれる。
また、経済のグローバル化が進むなかで、クロスボーダーのM&Aも一層増加することが予想される。
M&A業界のビジネスモデルについて
マネタイズとしては、着手金や中間金が発生するケースがあるものの、最近では成果報酬型が一般的になっている。
バリューチェーンとしては、まず、売り手企業と買い手企業がマッチしそうな企業の選定を行う。
買い手企業が売り手企業に興味を持った場合には、秘密保持契約(NDA)を結び、売り手企業の財務情報などを買い手企業に提供する。
また、買い手企業はバリュエーション、つまり売り手企業がどれほどの価値があるのかを算出する。
双方の意向が契約を進める方向となった場合には、経営者同士の商談をセッティングし、基本合意契約に至るという流れになる。
その後は、デューデリジェンス(事前情報との誤りがないかなどの確認)が行われ、本契約に進んでいくのだ。
基本的にはロックアップ期間が設けられ、M&A後の3年間は経営を継続してもらうなど、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)、つまり順調に吸収合併が進むような体制を取ることが多い。
M&A業界で得られるスキルとキャリアパス
経営者を相手にするため顧客折衝能力はもちろん、新規開拓力やファイナンス、税務の基礎知識、あるいは対象業界の知見、M&A後のPMIの流れなど、営業力に加えて経営に近い領域の実力を身につけることができる。
営業力と調整力
M&A業界におけるソーシング(案件発掘)では、営業力が身についていく。特にM&A仲介会社では自分で案件を発掘する必要がある。
案件発掘の手段は、ダイレクトメールやテレアポで譲渡企業オーナーとアポイントを取り、仕事を受託することになる。
なかには税理士や会計事務所からのソーシングで成り立っているM&A仲介会社もあるが、特に新入社員などはテレアポなどで試行錯誤を繰り返しながら、営業力が身についていく。
また、M&Aでは譲渡企業と譲受企業の主張が相反する場合が多い。そのため、両社の主張を整理し、納得する解決策を探り、成功に導いていく必要がある。
よって、このような経験から、「調整力」というスキルを獲得できる。
幅広い業界へのビジネスモデル理解
M&A仲介会社では、業種別にセクターを分けていることが少ないため、多くのM&Aプレーヤーは幅広い業界を経験することになる。
特に、組織化がされていないM&A仲介会社のベンチャー企業では、自分が攻めたい業界や知りたい業界へアプローチすることが可能なため、自由度が高いと言える。
幅広い業界を経験することで、業界ごとのビジネスモデルやキャッシュの流れを理解できる。
経営者との人脈
M&A仲介会社では、基本的に企業のオーナーをクライアントにするため、経営者との人脈を培うことができる。
特にM&Aでは、経営者の人生を左右する仕事を半年から1年間に渡り、経営者と伴走しながら進めていくことになる。
また、譲渡企業のオーナーだけではなく、譲受企業のオーナーや経営者の重要な意思決定に携わることになるため、深い関係性を築くことが可能だ。
経営者との人脈は、今後のキャリアパスにおいても、重要なものとなる可能性を秘めている。
具体的キャリアパス
実力次第で高年収が担保される業界であるため、スペシャリストとして業界内でキャリアアップしていく人も多い。
また成長産業で、初期投資費用の少ないビジネスモデルであるため、起業していく人も少なくない。
ファイナンスの知見などの基礎知識を活かし、事業会社の財務部に勤務しながら、キャリアを築くことも可能だ。
最近では、より大きなディールを目指して、コンサルティングファームのM&A領域に転職していく人もいる。
M&A業界の未来
新型コロナウイルス感染症や円高の影響により、飲食業界や旅行業界など、苦境に立たされる業界が増えてきた。また、コロナ前からの人口減少によって、市場規模の縮小が予測される業界でも、業界再編の動きが活発化している。
経営の効率化を目的に業界再編を行い、経営資源の効率的な配分をすることで、業界全体の問題を解決していく必要性が生じているためだ。
このように、競争環境が厳しい業界では業界再編が、大きく加速することが予想される。
よって、M&A業界で活躍したい人にとっては、活躍の幅が広がる時代の到来とも言える。
M&A業界への転職を考えているなら、ぜひ一度エージェントに相談してみてはいかがだろうか。