寄稿エージェント:工藤 宏人
どのように時代が変化しても絶えることのない業界が、人々の生活に強く根付いている食品業界だ。だからこそ人気の業界の一つにもなっている。
今回は、食品業界の課題と今後の展望について、業界動向も注視しながら解説していく。
食品業界が抱える課題
食品業界が現在抱えている課題は、大きく分けて以下の3つが挙げられる。
以下の3点についてそれぞれ、現状を説明していく。
①国内市場の縮小
②原材料費等のコスト高騰
③低い利益率
国内市場の縮小
国内市場の縮小は、人口減少に加えて、少子高齢化に伴う購買力低下と不景気による消費減退などが原因として挙げられる。
ここ数年は、売上が微増している堅調な業界に見えるが、決して楽観視できる状況ではない。
原材料費等のコスト高騰
昨今、原材料費や人件費、物流費の高騰により、製造コストがかさみ、各社は値上げせざるを得ない状況に追い込まれている。
帝国データバンクは、上場する主要飲食料品メーカー105社における、2022年以降の価格改定計画(値上げ実施済みを含む)を調査した。
すると、2022年9月末までに累計2万665品目の値上げが判明したのだ。輸入小麦や原油価格など、主な値上げ要因は沈静化の兆しを見せている。しかし、電気代など新たな値上げ要因が発生しているのが現状だ。
節約志向が高まる消費者にとって、値上げは受け入れ難く、利益率低下に加え、売上高の減少も招きかねない、非常に危惧する状況になっている。
さらに、安全・環境配慮によるコスト上昇も、値上げの要因となっている。日本の食料品には、諸外国と比較して、過剰とも言えるほどの高い安全基準が設けられている。そのため、品質を向上させるために、多くのコストがかかってしまうのだ。
低い利益率
また、製造コストの上昇も相まって、食品業界は他業界に比べて利益率が圧倒的に低い。
一般的に企業は、「利益が出たら再投資」というサイクルのなかで成長していく。しかし、利益率が低いことで、新商品の開発や新しい生産設備の導入など、投資に回せる資金が少なくなってしまう。
結果として、成長率も伸長しないという悪循環に陥っているのだ。
食品業界における今後の展望
先述のような課題を抱えている食品業界は、今後の業界の成長のためにも、変革が求められてきている。変革を迫られる食品業界の今後の動向と展望について解説していく。
海外展開
国内市場が縮小していることで、昨今は海外進出によって、売り上げを拡大しようとする動きが見られる。
特に、経済成長が著しいASEAN市場がターゲットとなっており、今後も海外の生産拠点や販売網を拡大する動きは盛んになるだろう。
また、外国企業のM&Aを通じて、現地展開を試みる国内企業も増えてきている。日本の食品メーカーの、高い加工技術と、高い基準安全品の質は、世界で通用するポテンシャルを秘めているのだ。
D2Cサービスの拡大
D2C(Direct to Consumer)とは、自社で企画・開発・ブランディングした商品を、卸や小売事業者を介さずに、オンラインを中心に、直接消費者に販売するビジネスモデルを指す。
従来は、食品D2Cのブランドを展開するのは、スタートアップ企業が中心だった。しかし、大手食品メーカーや飲料メーカーもD2Cブランドを立ち上げて、オンライン専用商品の開発に注力する動きを見せている。
コロナ禍における外出自粛や行動規制により、巣ごもり需要が拡大したことも、追い風となっており、D2Cのトレンドは今後も続いていくことが見込まれる。
DXの活用
今後は食品業界においても、さまざまな場面でDXが活用されることが想定される。例えば、人口減少による労働力不足の解決は避けて通れない問題だ。
また、HACCP(ハサップ:危害要因分析重要管理点)の義務化などで、業界への要求基準が高まっている。
品質管理や消費者ニーズの多様化が進むため、消費行動データの分析をもとにした商品開発、マーケティング活動が活発化していくだろう。
そのほかにも、機能性表示食品などの高付加価値商品の開発や配送面・生産面での競合他社との業務提携なども考えられる。国内市場の縮小を見据え、新たな取り組みが、今後さらに進行していくことは間違いない。
よって、食品業界各社は今後の生き残りをかけ、スピード感を持って資金投入することが大事になってくる。
SDGsへの対応
食品業界は、SDGsで掲げられている「豊かで健康な社会」を支える重要な産業だ。SDGsへの熱が高まっているなか、食品業界への注目も連動して高まっていくことが想定される。
今後は、SDGsへの対応をどのように事業へ反映させているかが、企業の社会的価値を示す材料になることが見込まれている。
さらに、株主、取引先、自治体などのステークホルダーにとっても、SDGsへの対応は重要な要素となるだろう。
SDGsは、現代が抱えている課題を網羅した指標のため、企業にとって将来的に起こりうるリスクを回避することにつながる。
食品業界への転職で歓迎されるスキルセット
先述のような動向を踏まえると食品業界では、より一層の業界での実務経験を有している人材や、知識や資格を持っていある人材が重宝されてくるだろう。そこで、食品業界でキャリアを歩むうえで業務の中で活かすことができる資格を参考として3つ、例に挙げて紹介していく。
食品表示検定
食品表示検定は、食品の製造や流通に関する専門知識を体系的に身につけられる資格だ。栄養成分や原材料などの基礎知識はもちろん、食品表示のコンサルタントや責任者に向けた実用資格まで幅広く学べる。
フードアナリスト
フードアナリストは食文化や料理の歴史、法律などを総合的に身につけるための資格といえる。全部で9つの分野を学習し、食の専門家を目指す。
本資格は、一般社団法人日本フードアナリスト協会が運営しており、420社を超える企業と100校を超える全国の大学・短大・専門学校で導入済みだ。
食品業界へ転職後は、商品開発やマーケティング、プロモーションなどの部門において資格を生かすチャンスがある。
貿易実務検定
貿易実務検定は、その名のとおり、貿易実務に関する実力を測るための資格だ。輸出入における物流や資本の動きを理解し、各種手続きがスムーズに行われるための資格になっている。
昨今、輸入や輸出を行う食品メーカーは多く、転職活動時に有利に働く可能性がある。なお、食品業界の生産部門は、特殊な資格やスキルが必要ないため、チャレンジしやすい傾向にある。
もし、食品業界への転職を考えているなら、これらの業界の変化を見据えたうえでのキャリアを検討すべきであろう。この記事が食品業界でのキャリアを検討する一助となれば幸いである。