寄稿エージェント:田口 京介
損害保険業界は比較的安定していて好待遇とされているため、就職人気ランキングでも常に上位に位置している。だが、自動運転の台頭や、サイバー保険のニーズの高まりなど、損害保険業界を取り巻く環境はめまぐるしく変化している。本記事では、損害保険業界における変革について述べていく。
新自動車時代~自動車保険ををめぐる環境変化~
所有からリース・カーシェアへ
昨今、若者を中心として、「車を保有する」時代から、「車をシェア・リースする」時代へと変化している。
三菱総合研究所の試算では2020年に6,211万台あった保有台数が2050年には5,553万台に減ると予想されているのだ。
その背景としては、シェアリングエコノミー(共有型経済)の概念が一般化してきたことが挙げられる。例えば、若年層はすでにモノを買うときから、「フリマアプリで何円で売れるか」を考え、モノを持つことだけでなく、体験に価値を置く傾向が強くなっているためだ。
自動車についても同様、現在では「カーシェアリングにより15分単位での利用」や、「カーリースにより数か月単位で乗りたい車に乗る」などが可能となってきているのだ。
また、今後は、MaaS(Mobility as a Service)の仕組みが進んでいき、交通手段を一つのアプリケーションから予約・利用することが可能になり、さらに「車を所有する」人の割合は減っていくことが予想されている。
※MaaSとは「様々な交通手段を一つのサービス上に統合し、より便利な移動を実現する仕組み」のこと。
自動運転の実用化
自動ブレーキやハンドル制御などの自動運転技術が高まっていくことで、自動車事故減少が予想され、保険料体系自体も大きく変わっていきている。
さらに、完全自動運転車(レベル5)が実現したときには、事故が起こったときの責任を、運転者ではなく自動車メーカーなどシステム開発側が負うようになる時代もそう遠くはないだろう。
保険に加入するのは自動車を保有している個人ではなく、自動車を開発したメーカーなどのシステム開発側となっていくため、保険会社では新たな保険商品の設計も進んでいる。
(例:損害保険ジャパンでは「自動運転システム提供者専用保険」をリリース)
ドラレコの普及
昨今の日本では、あおり運転の厳罰化が進むにつれ、ドライブレコーダー(以下ドラレコ)の需要は高まっており、国土交通省の2020年の調査によると、ドラレコの搭載率は約54%にも上っている。
そのため、損保各社は、独自で開発したドラレコを自動車保険とセットで販売していくことに注力しているのだ。
例えば、東京海上日動社では、ドラレコに録画された事故映像から人工知能(AI)を使って事故の責任割合を自動判定する機能を導入している。ドラレコから得られる走行データから安全運転かどうかを点数化し、得点に応じて割引するサービスは各社に広がっている。
環境変化に伴う新たなリスク
サイバー保険の必要性
損保業界の特徴として、環境変化に伴い様々な新商品がリリースされることが挙げられる。2020年以降大きなトレンドとなっているのがサイバー保険である。背景として、2022年4月に施行された改正個人情報保護法がある。具体的には、個人情報の取り扱いについての報告義務の厳格化や、個人情報の取扱について違反した場合の罰則の強化(最大1億円の罰金)などが挙げられる。そのため、ハッキングや情報漏洩事故などが大企業だけの問題だろうと考えていた中小企業も他人事ではなくなり、そこに備えるサイバー保険の需要は急拡大しているのだ。
サイバー保険は、サイバー犯罪を受けた企業や情報漏洩事故を起こした企業に対し、自社や取引先への損害、被害範囲の調査費、システム復旧費などを補償するもので、サイバー保険のニーズはこれからますます高まっていくだろう。
自然災害のリスクの増加
近年の日本国内での自然災害での被害は甚大なものとなっている。
2022年3月の日本損害保険協会の調査によると、過去の風水災(大雨、台風、土砂崩れなど)の被害額は「平成30年台風第21号」が過去最大とされているが、上位10件のうち7件を、2014年以降の災害が占めているほどだ。
この様な背景から、火災保険の保険料は2019年以降、業界全体で上がり続けており、今後も下がる可能性は極めて低いと言われている。
また、新たなリスクの代表的なものはコロナ保険も一例に挙げられる。コロナ禍において、各社で開発競争が行われたのがいわゆる「コロナ保険」と呼ばれる、新型コロナウイルスに感染すると保険金がもらえるという商品だ。ただ、感染者増加に伴い赤字となり、販売停止や支払要件の強化を進める会社が増えているのが実態である。
今後の損害保険業界に求められることとは
上述した通り、損害保険業界を取り巻く環境は日々変化している。
変化の多い業界であるため、専門的なスキルを持った人材の中途採用が強化されている。 商品開発部門や営業推進部門においてはデータ分析スキルを持ったデータアナリストやデータサイエンティストなどが、 海外事業部やIT企画部門においてはIT経験(プロジェクトマネジメント経験や情報セキュリティ管理)を持った人材が採用されている。
部門が多い分、社内の人材を登用することに積極的ではあるものの、やはり即戦力となる人材を求める傾向は強くなっている。
また、元の事業モデルから変化が進むからこそ、営業職としてキャリア形成をしていくなら、転職も選択肢の一つになる。
損害保険会社出身者が評価されるスキルとしては、社内各部門との調整能力やプロジェクト推進力、クライアントのグリップ力などがあげられる。 こうしたスキルは、コンサルティングファームやSIerやSaasなどのIT業界の営業部門などで求められている。 これからの損害保険業界では、市場の動向や流れをキャッチアップして時代を先読みする力や、変化に対応できる柔軟な思考が求められるだろう。