寄稿エージェント:山上 訓平
コロナ禍における在宅勤務の広まりや電子帳票法の改正などに伴い、クラウド上で誰もが利用できるシステムである「SaaS」の必要性は増加している。 本記事では、SaaS業界の躍進が続いている理由とSaaS企業で働くメリット・リスク等について解説したい。
SaaSを伸長させる4つの特徴
まず、改めてSaaS とは何かという点から整理したい。
SaaSは「 Software as a Service 」の略であり、日本語で「サース」または「サーズ」と呼ばれている。直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」となり、クラウド事業者が提供するソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービス一般の総称である。
2000年代から徐々に広がりを見せていた国内SaaS市場は、現在年平均成長率約13%を維持しており、2025年のSaaS市場規模は2020年度実績の約2倍となる1兆5,000億円規模まで成長が見込まれている。
これほど急激に市場規模が拡大している理由は、SaaSの持つ特徴に起因している。
4つの特徴とは、以下の通りである。
・初期費用や手続きが容易で導入ハードルが低い
・ランニングコストが低い
・クラウド上で簡単に共有できる利便性
・コストの適正化を図ることができる
これらを一つずつ詳細に解説していく。
導入のための手続きが容易でハードルが低い
今までのソフトウェアは、初期導入に多大な手間と費用が掛かり、一度導入するまでのハードルが高かった。一方、SaaSはクラウド事業者が提供するソフトウェアをインタ初期費用もかからないため、企業側としては比較的容易に導入を検討することができる。
ランニングコストが低い
SaaSの料金形態は買い切りではなく、毎月決まった金額を支払うサブスクリプション方式であることが多く、リーズナブルな価格帯で使用できる。また、クラウド上で自動的にアップデートが行われるため、更新の度に買い直したり技術者に管理してもらったりする必要がなく、継続的に利用しやすい。
クラウド上で簡単に共有できる利便性
SaaSはインターネット環境さえ整っていれば、場所や媒体を問わずどこでも使用することができる。また、複数のデバイスから1つのデータに同時にアクセスしたり、編集したりすることも可能であり、クラウド上に保存されるためデバイスのうちの1つが破損してもデータが失われることが無いため情報消失のリスクも抑えられる。
コストの適正化を図ることができる
従来のソフトウェアはパッケージ型の製品であり、高価なコストに見合うような多くのサービスが購入時から付属していた。一方SaaSは必要なサービスを必要なタイミングで契約し、不要になれば解約も用意であるため、その時々に応じてコストの適正化を容易に行うことができる。
SaaS企業で働く上での2つのメリット
このような理由から今後もマーケットが伸びていくことが想定されるSaaS領域だが、単に成長企業群だから良い転職先であるというわけではない。
次からは、SaaSサービスを取扱う企業で働くメリットについてもご紹介したい。
成長産業だから得られるスピード感
最大の理由としては、自分自身の市場価値を高めることが出来るという点にある。
具体的に伝えると、成長フェーズの会社であればあるほど、歯車としての働きではなく、制度の設計やより事業をグロースさせていく経験を取っていくことが出来る。
従って、相対的な市場価値が高まっていきやすい。
また、マーケット自体が伸びている為、実力次第で大きな実績を積んでいくことができる。そのため、社風次第にはなるが早期からマネジメントポジションに挑戦することが可能である。
The model型での営業経験
SaaS企業の営業モデルは、基本的にThe model型と呼ばれる働き方が細分化された形になっている。
料金体系がサブスクリプション方式であり、顧客に継続的な利用をしてもらうことによって利益が最大化するSaaSにおいては、いかに顧客満足度を向上していくかということが重要である。
そのため、営業プロセスを切り分け、各段階での情報を数値化・可視化しながら担当する部門間が連携することで、顧客満足の向上を図る仕組みが採用されている。
この営業モデルは近年頭角を現してきている為、一度専門性を高めてスキルを習得すれば中長期的に使える力が身につく。
その反面、まだ見本となる層がいないアーリーフェーズな職種であるため、将来のキャリアパスが不透明な部分があることは否めない。
キャリアの構造として、年齢を重ねれば重ねるほど即戦力性が高くなっていく必要がある。例えば、The model型の営業の中でインサイドセールスに進んだ人のキャリアはインサイドで築いていかなければならない。
そのため、業界が伸びているからと安易に職種を決めず、本当にインサイドセールスをやっていきたいのかという部分まで検討する必要がある。
今後残り続けるSaaS企業とは
今後もマーケット拡大が予想されるSaaS業界ではあるが、それ故に生き残りを賭け日々競争が激化している。
例えばバックオフィス系の効率化システムは既に競争が進んでおり、国内の主要マーケットをある程度確保し終わっている状態にある。
こうした状況下でSasS企業が生き残るためには、常に顧客が必要とするサービスが何かヒアリングし、改善をしながらローンチしていく必要がある。
しかし、製品改善には当然コストがかかってくるため、結局収益が安定したサービスを提供することが最も重要である。
では、どのようなサービスであれは安定した収益を得ることが出来るのか。
条件としては2つあり、一つは圧倒的なサービスの質を持っていることと、もう一つはそれに伴ってターゲットを顧客獲得していることである。
質の観点では、顧客がそのサービスを使うだけの必然性があるということが重要である。
上場するポテンシャルのある高い質を備えたSaaSプロダクトを持つ企業を選択することで、十分な力をつけながらキャリアアップを図っていくことができるだろう。
SaaSがアーリーフェーズにおいて多額の広告宣伝費を費やす理由
とはいえ、成長中のSaaS企業について調べると、アーリーフェーズに多額の資金調達を行っており、入社しても良いものか、と考える人も多いだろう。
このようなことを企業が行うのは、当然明確な理由がある。
結論から言うと、先行者利益を取る為である。
SaaSはサブスクリプション方式でいつでも解約が可能ではあるものの、一度契約すればチェーンレートがよほど悪くない限り継続して利用してもらえる可能性が高い。
似たようなマーケット内ではいかに早く認知され契約してもらえるかが重要であり、競合よりも早くシェアを獲得する必要がある。
また、投資家の観点からしてもARR(年間経常収益)やLTV(顧客生涯価値)といった指標からSaaS企業は業績予測が立てやすく、赤字であっても資金調達が比較的しやすいという特徴がある。
そのため、アーリーフェーズにおいて赤字であろうとも先行投資を行い、収益最大化を優先させることが合理的なビジネスモデルであることから、戦略的に広告宣伝を打つ企業が多い。
SaaS企業へ転職を検討する際は、安易に決めることなく、自分がどの職種で活躍したいか、また入社後この企業は伸び続けるポテンシャルを持っているのかを検討した上で選択していただきたい。