寄稿エージェント: 津村 航平
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が叫ばれている不動産業界。しかし、一部の企業を除いて、デジタル技術の導入やオンライン化が思うように進んでいない。
その問題点と解決策について、また新型コロナウイルス感染症の影響による営業手法の変化についても考察していく。
不動産業界でDX化が進まない背景(特に居住用不動産)
不動産業界でDX化が進まなかった背景には、大きく2つの要因が挙げられる。
1つ目は、不動産購入は物件の購入金額が高いこと。2つ目は、一生に一度の買い物である場合が多いため、購入頻度が低いことが挙げられる。
この2つが、DX化が進んでいない要因に大きく関係しているのだ。
まず購入金額が高いことについて、首都圏の新築物件販売会社を例に見ていく。このような会社では、新築物件1戸当たりの平均金額が7,000万円以上となっている。
また、中古マンションにおいても平均金額が4,000万円を超える金額帯で推移している。
そのため、「実際の内装や設備、間取りをきちんと確認をした上で購入をしたい」と考える客が多いのだ。
実際に販売センターに見に行き、担当者から直接話を聞きたいというニーズが顕在化している業界であるため、デジタル技術の活用まで普及しにくい特徴がある。
その上、かなり高額な商品であるため、現金一括で購入をするケースは少なく、一般的には住宅ローンを使いながら購入するパターンが多い。
住宅ローンを使用する場合、固定金利がよいのか、または変動金利が有利なのかなど、「不安を払拭するために話を聞きたい」という現状もある。
さらに、商品の特性上頻繁に買い替えが起こるケースは少なく、基本的にリピーターという考え方はない。
そのため、顧客管理の必要性が低く、DX化推進にあまり重きが置かれてこなかった。しかし、昨今そのニーズが新型コロナウイルス感染症をキッカケに大きく変化している。
次章では具体的に、新型コロナウイルスが不動産業界に与えた影響について見ていきたい。
新型コロナウイルス感染症による不動産業界への影響
非対面・非接触の促進
まず、新型コロナウイルス感染症の感染防止のために、「非対面・非接触」が求められるようになったのだ。
つまり、店頭や住宅展示場などで客と接するという方法を根本的に見直す必要性が出てきた。
そのため、不動産業界でも急速にDXが進んでいる。その一番に挙げられるのが、モデルルームの変化だ。
従来、新築マンションでは、まだ完成をしていない状態で販売するケースが多いため、モデルルームを作るのがセオリーだった。
また、モデルルームは建設中のマンション近くに作られるケースが多く、住まいをイメージしてもらうためには不可欠なツールとなっていた。
しかし、最近はモデルルームをその場所に作らない販売会社が増加中である。
その一方で、大手不動産会社を中心に、新宿や渋谷、銀座など、利便性の高い場所にショールームを展開しているケースも見られる。
その場所で、物件のイメージを明確にしてもらえるように、いくつかのマンションのモデルルームを集約化しているのだ。
さらに、そのショールームにおいて重要な役割を果たすのが、「バーチャルステージング」である。
これは、空室の部屋に家具や家電などを置いて、住み始めてからの生活をイメージしてもらうことで購入意欲を高める手法。
ここでは、CG(コンピューターグラフィックス)を使うことで、手軽にかつ短時間で、イメージする住空間を完成させることが可能となった。
最近では、メタバース空間上に住宅展示場をオープンさせるケースもある。デジタル化によって、不動産販売を効果的に行えるようになった特徴的な事例だろう。
情報開示のDX化
情報開示の点でもDX化が進んでいる。
元々不動産の情報を得るためには取り扱い物件の売主に問い合わせをして、直接情報を収集する必要があった。また、直接販売センターに赴くというケースも一般的だった。
しかし、最近は情報収集サイトの発展により、オンライン上である程度目星をつけた後に、問い合わせをするという形式に変化している。
それゆえ、顧客から多くの反響を得るために大手不動産会社を筆頭に情報開示を積極的に行う企業が増加中だ。
例えば、ウェビナーや動画コンテンツを作成し、直接来場できない顧客獲得を狙う企業も増えている。
それは、テレビ番組さながらの作り込みをする会社も少なくなく、ただ情報開示を行っているわけではない。
「複雑性のある商品の説明をいかにわかりやすく伝えるか」に注力し、各企業が丁寧かつ慎重にアプローチしているのだ。
不動産業界のキャリアパス
ここでは、新型コロナウイルス感染症などの影響により、不動産業界にDX化が浸透しつつある今、キャリアパスがどのように変化しているのか解説したい。
元々、不動産営業は個人顧客に対するアプローチの要素が強く、キャリアパスとして同業界の営業に進む、もしくは異業界の個人営業に進むというケースが大きな割合を占めていた。
しかし、最近ではそういった戦略構築やマーケット戦略を図る法人企業と折衝しながら、DX浸透に伴う新たなキャリパスも見られるようになった。
具体的には、①どの年齢層をターゲットにするのか。②ターゲットとした見込み客に対してどう認知を広げていくかについて、よりじっくりと考察していく営業手法である。
いわゆる「不動産テック」と呼ばれている新たなビジネスモデルもその1つであり、不動産とテクノロジーを融合することで、これまで煩雑化していた営業業務の効率化を進めている。
あくまで一例ではあるが、新たな時代に突入した不動産業界においては、以下のキャリパスも選択肢として検討したいところだ。
- 不動産テック領域への転身やスキルアップ
- WebやIT業界
このように不動産業界のDX化が、その領域に従事する営業マンのキャリアパスにも好影響を与えている。
ぜひ、今後業界を生き抜くための参考にしていただきたい。