保険業界における現状4つの課題感と今後の展望について

保険業界における現状4つの課題感と今後の展望について

寄稿エージェント: 久保 佳大

保険業界はいまも大きな転換期の真っ只中にあるが、低迷する業界の再興を求めて過去の常識を取り去り、奔走する動きが活発になっている。

本記事では、保険業界における現状の課題感と今後の展望について、業界動向も注視しながら解説したい。

生命保険業界に起こる4つの課題感

今後の生命保険業界を占ううえでも、まずはバブル期から現在に至る日本の生命保険市場の動向についての考察が必要だろう。

4つの大きな課題とは以下のように大別される。

  • 少子高齢化による新規加入者の減少と高額な支払い負担の増加
  • 若者の保険離れの加速
  • 長引く不況と金利の低迷が国内の運用益を圧迫
  • 死亡保障の保険料改定による保険会社の減収

これらを時代背景とともにさらに深堀りする。

少子高齢化による新規加入者の減少と高額な支払い負担の増加

以前は、自分の死後、家族が路頭に迷わず、安心して生活ができるよう保険に加入することは当然だった。

しかし、それは安定した加入者と金利が持続すればの話である。現在は、少子高齢化により生命保険業界に2つの大きな変化が存在している。

1つ目は、少子高齢化によって主要な保険加入者層である働く世代が減少している点だ。

「労働力調査(基本集計)2021年平均結果の概要」によれば、労働力人口(15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、2021年平均値で6,860万人と前年比で8万人の減少が見られた。

そもそも生命保険に加入する母数が確保できないのだから、その分の利益を生み出せないことは容易に想像がつくだろう。

そして2点目は、保険金を受け取る高齢者が増えたことだ。

この高齢者世代は金利が高い時代の保険に加入しており、満期や死亡によって高額の保険金の支払いが発生するため、各保険会社の負担は確実に増加している。

このように少子高齢化の波が生命保険業界へ押し寄せ、加入者と受給者とのバランスが大きく崩れてきている。

若者の保険離れの加速

次に、若者の保険離れによって新たな保険加入者の獲得が困難になったことも課題の1つだろう。

以前は、社会人になれば当然だった生命保険料も、今では自分の人生に対する現実的な投資に優先順位を奪われ、知識や能力、経験などのリターンを得るための資金へと変化した。

見方を変えれば、日本人の平均年収が30年前と変わらないなかで、物価高による影響も受け、生命保険に投じる余裕もないのが現状だ。

これは、死後の備えに対する価値が薄れたわけではなく、限られた資金の中で自分が人生に何を求めるのか、幸せとは何かという価値観が広く根付いたことにもよる。

長引く金利の低迷が国内の運用益を圧迫

国内生保の運用先は資金貸付から徐々に債権の運用へと移ってきたものの、頼りの国債でもマイナス金利によって思うような運用益が出せず、海外社債や国内不動産へとポートフォリオを徐々に入れ替えている。   

現に9年国債の金利で比較すると、1974年の8.1%から2022年の0.2%という驚くべき下落ぶりだ。 

そのため、終身保険や養老保険、学資保険など貯蓄型の保険を主力にしていた保険会社は、魅力的な運用益が出せずに苦戦を強いられている。

また、国内に活路を見出すよりもM&Aや海外進出でリスクを分散する道を選んだ保険会社も見受けられる。 

死亡保障の保険料改定による保険会社の減収

2018年には、死亡保険料の算出に使われる標準生命表が11年ぶりに改定され、死亡保障にかかる月々の保険料が見直された。

医療技術の向上で平均寿命が延びて死亡率は下がるが、これによって月々の保険料が下がることにもつながる。

高度先進医療がもたらした喜ぶべき長寿は、皮肉にも保険会社の保険料収入を減少させてしまったのだ。

このように、生命保険業界には大別すると4つの課題が存在し、既存の事業モデルからの転換期に差しかかっている。

販売チャネルの多様化がもたらすもの

次に、国内保険市場における販売チャネルの変化についてもご紹介したい。

昨今生命保険は、生命保険会社の販売員だけではなく、銀行の窓口やインターネットでも加入できるようになった。

とくに、インターネット系の生命保険会社は、スマートフォンの画面操作だけで見積もりや加入ができる簡便さと、保険料の安さが魅力だ。

くわえて、販売員とのやり取りが不要な点も受け、若い世代の保険加入チャネルの大きな一角を担っている。

このような非対面契約の傾向は、コロナ禍において郵送で完結できる加入方法が導入されたことにも大いに影響を受けている。

今後ますます変わりゆく保険業界で販売員が必要とされるには、プロにしかできない価値提案で加入者へ訴求する必要がある。

とくに、月々の安い保険料を目的に設計した保険は、保険金を受け取る時期の状況を充分に考慮せず、保険金額が不足した不完全なものも多い。

そんな加入者に対して、悲しい状況に直面して保険金が少ないつらさを事前に想像させてあげられるのは、他でもないプロの販売員だけなのである。

保険業界の展望と変化の兆候

では、今後どのような販売員、事業モデルであれば、この厳しい保険業界を生き抜くことができるのだろうか問いたい。

これからも生命保険会社の統合や合併は進むが、疲弊した会社同士が苦し紛れに合併するのでは意味がないのだ。

また、合併後においては全ての販売員を抱えられず販売員の中でも販売力や提案力を持つものだけが生き残るだろう。

M&Aや海外進出などと同様に、リスク分散や基盤強化のために戦略的な事業モデルを確立する必要がある。

また、懸念されている保険業界の存続についてだが、保険業界で培ったデータやノウハウを活かすことで、新たな顧客への価値提供を創造できる。

例えば、業界が上向く兆候としては、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスで集めた心拍数・血中酸素濃度・歩数・消費カロリーなどのデータを利用した「健康増進型保険」もその1つだ。

さらに健康的な行動にはポイント付与の還元があるなど、健康習慣とセットになった次世代の生命保険商品が業界を席巻するかもしれない。   

ITを使って集められた膨大なデータに、従前から保険会社に蓄えられたデータを掛け合わせることで、新たな健康増進習慣や保険商品の開発、そして加入者の状況に応じた改善アドバイスや医療機関の提案ができる。

こうして保険会社は「保険 × データ × AI」 を駆使してパーソナライズ化された保険商品の開発やサービスの提供をすることで、資金調達専門の役目から健康に寄り添うパートナーへと役割を変えていくだろう。