エンジニアが上流・企画職を目指すなら知っておきたい「PoCプロジェクト」とは

エンジニアが上流・企画職を目指すなら知っておきたい「PoCプロジェクト」とは

寄稿エージェント:大塚 源太

「上流に行きたいエンジニア」が直面する壁

エンジニアの方からキャリア相談を受けていると、「将来的には企画職や上流工程に携わりたい」という声を非常によく耳にします。背景には、「このまま実装や運用を続けていて、キャリアは広がるのか」「年齢を重ねたときに、今と同じ役割を続けられるのか」といった不安があることが多いように感じます。

一方で、その「上流」が何を指しているのかを掘り下げていくと、多くの場合、要件定義や基本設計といったシステム開発プロセス上の上流工程を想定しているケースがほとんどです。確かにこれらは重要な工程であり、開発経験しかないエンジニアから見れば「一段階上の仕事」に見えるのも自然なことです。

しかし、実際のビジネス現場では、さらにその手前に判断フェーズが存在します。それは、「この課題に取り組むべきか」「システムで解決するのが最適なのか」「今このタイミングで投資すべきなのか」といった、事業そのものの方向性を決める意思決定の段階です。

このフェーズでは、要件書も設計書も存在しません。むしろ、「要件を定義する前に、そもそも前提を疑う」ことが求められます。こうした作る以前の判断を担う代表的な仕事の一つが、コンサルティングファームにおけるPoCプロジェクトです。

 コンサルにおけるPoCプロジェクトとは何か

PoCとは Proof of Concept の略で、日本語では「概念実証」と訳されます。簡単に言えば、新しいアイデアや技術、仕組みが本当にビジネスとして成立するのかを、小さく・短期間で検証する取り組みです。

SIerの受託開発が、「決められた要件を前提に、品質・納期・コストを守って作り切る」仕事だとすれば、PoCは「その要件自体が妥当なのかを検証する」仕事だと言えます。ゴールはシステム完成ではなく、「本格投資に進むかどうかを判断できる状態を作ること」です。

実際のPoCでは、必ずしも動くシステムが成果物になるとは限りません。

・簡易なプロトタイプ

・業務フローのBefore / After

・効果試算やROIの概算

・リスクや前提条件の整理

といったアウトプットを通じて、「進む/止める/方向転換する」という判断を支援します。

コンサルティングファームがPoCを重視するのは、不確実性が高いテーマを多く扱うからです。新規事業、DX、AI活用といった領域では、最初から正解が見えていることの方が稀であり、仮説を立て、検証し、修正するプロセスそのものが価値になります。

 PoCが担うのは「システム上流」ではなく「ビジネス上流」

PoCという言葉から、「技術検証が中心なのでは」と考える方もいます。確かに技術的な検証は重要な要素ですが、コンサルにおけるPoCの本質は、あくまでビジネスとして成立するかどうかの検証です。

具体的には、

「この取り組みは誰のどんな課題を解決するのか」

「現場業務や意思決定フローはどう変わるのか」

「導入コストに見合う効果は期待できるのか」

「本格導入に踏み切るための条件は何か」

といった問いに向き合います。

これらを、仮説 → 検証 → 示唆整理 → 意思決定支援という流れで整理していくのがPoCです。ここで重要なのは、「精度100%の答え」を出すことではありません。「現時点で、どこまで分かっていて、どこが不確実なのか」を明確にすることが価値になります。

この動き方は、要件定義や設計といったシステム上流というよりも、経営企画や事業企画に極めて近い仕事だと言えるでしょう。

AI案件とPoC、そして実務のリアル

近年、PoC案件が急増している背景には、AI活用の広がりがあります。AIは非常に注目度が高い一方で、「本当に業務で使えるのか」「期待されているほどの効果が出るのか」といった点は、実際に試してみないと分からない部分が多くあります。

特にSaaS×AIの文脈では、「AIを入れること」自体が目的化しやすく、PoCではその前提を疑うことから始まります。例えば、「この判断は本当にAIで代替すべきなのか」「ルール化や業務整理で十分ではないのか」といった議論が頻繁に行われます。

私自身、SaaS型AIシステム導入のPoCに関わった際、コードを書く時間よりも、業務理解と論点整理に費やす時間の方が圧倒的に長いと感じました。

現場ヒアリングを通じて業務の曖昧さを洗い出し、AIが得意な部分・不得意な部分を切り分け、精度評価の基準を設計する。その上で、「この結果をもって経営としてどう判断すべきか」を整理することが求められていました。

 PoC経験がキャリアにもたらす価値と向き・不向き

PoC経験は、キャリアの選択肢を大きく広げます。エンジニアであれば上流SEやITコンサル、企画職であればDX企画や新規事業推進、コンサルであればマネージャーや事業会社側への展開など、多様な道が見えてきます。

特に評価されるのは、「不確実な状況で、どのように判断を支えたか」という経験です。ハイクラス層の転職では、「何を作ったか」よりも、「どんな意思決定に、どう関与したか」が問われます。

PoCに向いているのは、必ずしも技術力が突出した人ではありません。仮説思考を楽しめる人、正解がない状況でも前に進める人、技術をビジネスの文脈で捉えたい人は、PoCで力を発揮しやすいでしょう。

 おわりに

PoCプロジェクトは、単なる検証業務ではなく、企画・上流・ビジネスに踏み出すための実践の場です。エンジニアから企画職へ、現場から経営に近い領域へとキャリアを広げたい方にとって、非常に有効な経験になります。

キャリアの方向性に迷っている方、企画やコンサル領域に興味はあるが一歩踏み出せていない方は、ぜひ一度キャリアの棚卸しからご相談ください。実務と転職支援の両面から、現実的で納得感のある選択肢を一緒に考えさせていただきます。