寄稿エージェント: 白石 拓也
高い営業利益率と高年収というイメージが強いキーエンス。 機械部品・産業機械メーカーであり、営業利益率は50%を超えており、競合を圧倒している。
今回はなぜキーエンスが他社を圧倒する強さを持っているのか解説したい。
なぜキーエンスは高い営業利益率を出せるのか
まず、独自性を活かした価値ベースの価格設定を行っている点が挙げられる。メーカーの製品・サービスの価格設定は、顧客・競合・自社基準で考えることが多い。
一方、キーエンスは原則、顧客基準で価格設定を行う。これは他社では再現できないクオリティの製品を開発・製造することで同条件の価格勝負にさせないというのものだ。
つまり、同社の製品価値ならばこの値段は妥当、というように他社との価格競争が働きにくいフィールドで、純粋な提供価値ベースで価格設定を行うことができる。
実際、同社の商品には「世界初」「業界初」といったフレーズが並び、顧客への価値提供を最大化できる商品開発を行っている。
また、顧客への提供価値から試算することに加えて、顧客の予算ベースでも価格設定を行う。顧客の事業規模に応じて価格設定を柔軟に変えている。
独自のファブレス経営
同社の経営を特徴づけるのがファブレス経営だ。ファブレスとは、端的に言うと工場を持たない経営手法のことを指す。
自社ブランドの製品の生産・組立をアウトソースするビジネスモデルを指している。従来のメーカーと異なり、製造設備の投資や自社の生産工場を持たないため、経営資源を企画・研究・開発・営業のコア業務に注ぎ込むことが可能だ。
市場への新規参入を図るベンチャー企業や、高収益型のビジネスモデルを目指すメーカー企業がファブレス経営を取り入れるケースが多く、キーエンス以外も、任天堂、Appleなどのグローバル企業もファブレス経営を採用している。
同社の製造ラインは国内と海外の協力会社にアウトソースしており、商品の特性とマッチした技術、生産ラインを持つ工場を柔軟に選択でき、合理的な生産ラインを確保している。
自社工場を持ってしまうと、新商品を製造するたびにラインの再編成が必要となり、これが生産性の悪化やコスト高を招き、生産体制を意識するあまりに柔軟な企画が生まれにくくなる。
世界情勢や市場の変化に左右されず、顧客にとって付加価値の高い商品をタイムリーかつ大量生産するには、このファブレスという考え方が同社の商品開発の柔軟性・強さを支えている。
確立された圧倒的営業手法
同社の強さは無駄のない営業制度にもある。特徴的な営業体制は直販制度を採用しており、クライアントと直接コミュニケーションしている。
一般的なメーカーでは代理店や販売会社に商品の営業を任せることが多い。一方で、同社は顧客との距離感を大事にしており、顧客が現在求めているニーズを吸い上げ、それをタイムリーに商品開発に繋げている。
また、営業プロセスにも全く無駄がない。営業マン1人あたり生産性をいかに向上させることができるかにフォーカスされた仕組みが確立されている。
無駄とは売上に繋がらない行動と定義したときに、例えば、決裁者以外の人とのコミュニケーションは極力減らし、まず決裁者と商談できる場を作ってから提案を行う。
また、営業マンは提案資料を作成することは基本的にしない。別の専門チームが資料を作成し、それを適宜タブレットから取り出して提案している。現場の社員は顧客に商品を売ることに集中している。
プロセスの数値管理が徹底されていることも特徴だ。同社の営業は科学的に設計されており、優秀な営業マンを軸に、どのようなアクションを何回すればよいのかモデル化されている。
商談に至るまでのアポイント数や、コミュニケーションの頻度など最も成果を出すことができる行動と行動量が各プロセスごとに明確に定められている。
そして、それを日報という形で振り返りを行う。報告の内容も詳細に記載する必要があり、ベストプラクティスに対してどの程度ビハインドしているのか各プロセスごとにチェックが入る。整合性が取れていない行動については上司から指摘が入り、すぐに改善策の検討が始まる。
このように、独自の価格設定、ファブレス経営、営業プロセスの確立を主な要因として、キーエンスは他社を圧倒している。B2Bの企業のため、その実態に触れる機会はあまりなかったかもしれないが、本記事が参考になれば幸いだ。