寄稿エージェント:高木 土筆
今回は、大変と言われるが実態をつかみにくい、上場準備の具体的なハードルを紹介することで、今後上場準備に入る企業に在籍している方やIPO準備企業への転職を考える方に参考にしていただければ幸いである。
IPOを実現できる企業は数少ない
上場準備に入った企業で、実際に上場に至る企業は全体の5%以下と言われている。
売上や利益の規模が十分にあっても、ガバナンスが整備されていないなど、上場に向けては多くのハードルが存在する。
多くのスタートアップ企業様との付き合いの中で、負担の大きい準備項目や、上場取り止めになるパターンをご紹介したい。
具体的な実現ハードルとは
上場考えている企業にとってネックとなるものは大きく3つの要素に分けられる。
1つ目が売上・利益予測に関連するものである。上場準備期間に入ってからは、高精度に売上と利益の予測を出すことを求められ、実際の数値がその予測数値についていかないことにより、上場が承認されないというパターンが多くある。
直近で言えば、コロナの不況によって少なからず業績に影響がある企業がほとんどであり、コロナ前に売上・利益予測を立てていた企業は上場を延期する必要に迫られた。
もちろん、時価総額への影響などを考え、自主的に延期した企業も存在するが、スタートアップ企業において2年先3年先の売上を正確に把握することは容易ではない。
2つ目は法律遵守や契約の結び直しなどである。
非常に多岐に渡るが、特に問題になるのが労務関連の契約、および事業運営上の契約の見直しが挙げられる。
勤怠管理や残業代の支払い等創業期には少なからずグレーである企業が多く、その部分の見直しは負担が大きい。
また事業運営上の契約では、 特に許認可系ビジネスでは、守らなければいけない細かいルールが数多くあり、既存の取引先の全てに新しい契約で結び直しをお願いするなど、業務的な負荷が多くかかることになる。
今まで特に問題なかったと認識していた運営方法を見直す事は、現場から必要性に疑問があることも多く、多くの関係者を巻き込みながら進める必要がある。
3つ目は規定の整備である。
数多くの規定を整備するとともに、実際の業務プロセスを規定に合わせていく必要がある。これは業務プロセスを再定義するという負担だけではなく、経営者から見るとまるで自分の会社じゃなくなってしまったような感覚を持ち、上場に懐疑的になることも多い。
この場合には、上場の目的が正しく整理されていればその必要性を判断し、前に進むことができている印象である。
IPO担当の役割とは
実際にIPO準備では多くの関係者が必要になる、全体の段取りを担うIPOコンサル、経理責任者、財務責任者、もちろんガバナンスを整えていくための経営者などそれぞれがIPO担当としての自覚を持って進めていく必要がある。
自分の管轄範囲によって、具体的な業務内容は異なってくるが、企業成長に伴い、健全な事業運営に向かうための整備を行う意識が必要になる。
今までは経営者がすべてのことに関して意思決定をしていたが、企業が大きくなるにつれ、 意思決定権限は上場とは関係なく、適切な決定者に委ねられていくべきといった具合である。
このような経験を細かな整備も含めて進めていくことで、上場に導けるようなスキルセットだけではなく、事業運営を適切化するための知識を手に入れることができる。
だからこそ、転職市場でも評価される経験であり、負担は掛かるもののやりがいや見返りも大きいため、ぜひ前向きに取り組んでいただければと思う。
IPO準備中企業へのご転職をお考えの場合には、転職企業先やそこでの業務内容について、微力ながらお話しできることも多いと思うので、ぜひお気軽にご相談いただければ幸いである。