寄稿エージェント: 高木 土筆
大手銀行の三菱UFJ銀行が金融工学やデジタル技術に精通した専門性を持つ学生を採用するために、新卒で年収1000万円になる可能もあると発表した。
外資系では、優秀な人材に対して柔軟な年俸提示で採用することはよくあるが、日系大手企業でもその変化が起きつつある。今回はその動きについてご紹介したい。
新卒年収1000万円の背景
国内だけでなく、国外も含めて優秀な人材の確保は至上命題である。市場の変化はテクノロジーの変化とともに加速を増しており、業界の壁があいまいになってきているため他業界からの脅威にさらされることも増えた。
しかし、日本社会の根底にある「終身雇用と年功序列」の制度では、十分に優秀な人材を確保ができない現状がある。
海外では一般社員に対して給与の上限は設けられておらず、本人のスキルや実力によって給与が上下する実力主義の給与体制が一般的だが、日本企業の給与形態には、そこまでの柔軟性がないことが多い。
特に、IT人材の年収は米国では1000万円~2000万円になることもあるが、日本では米国の半分以下の水準になっており、その競争力が弱い。
また、国内のIT人材はそもそも母数が少ないため、各社奪い合いになっているのが現状だ。
大手日系企業も柔軟な給与提示で人材確保へ
これまで大手日系企業は総合職採用として新卒であれば同じ条件で採用して、そこから配属を決め、ジョブローテーションさせるというのが一般的であった。
一方で最近では、大手銀行の三菱UFJ銀行で、金融工学やデジタル技術に精通した専門人材を対象として、同行が定める標準的な初任給レンジとは異なる給与レンジを提供することが発表された。
これまでのオープンポジションに加えて、英語が堪能な人材を海外部門に配属することを前提として特定職採用を実施してきていたが、IT人材も明確なターゲットとし、給与レンジも柔軟性を持たせる。
テクノロジーに強い学生は採用後、支店配属や法人営業などの幅広い業務を経験するのではなく、デジタル専門の部署に配属が決定されており、その部署でキャリアを積み上げていく。
他にも、ソニー、NEC、ファーストリテイリング、くら寿司などの日系企業も特定のスキルを持つ学生に対して、通常の給与レンジよりも高く提示し、特定の部署の中でキャリアを積めるポジションを用意している。
くら寿司は将来の幹部候補生ということで入社1年目から1000万円を提示するということで話題になった。
優秀な人材を見極めることができるかが勝負
特定のスキルを持つ人材を採用するためには、企業側が採用試験の中で候補者に専門性があるか判断できるようにしなければならない。
従来の面接であれば、学生時代頑張ったことや志望動機を確認するのが一般的であったが、このようなスタイルでは特定の専門知識を持ち合わせているか判断することは難しい。
高額な年収レンジで学生の応募を集めることはできるかもしれないが、入社の成長イメージや受け入れ体制が整っているのかどうかは学生側もシビアに判断している。
面接の場は企業が学生をジャッジする場でもあるが、学生が企業をジャッジする場でもあり、特定のスキルセットを持った学生は引く手あまたのため、その目はよりシビアになる。
年収ももちろん重要であるが、最近の学生はワークライフバランスや今後転職できるのかという意味での市場価値を重要視する傾向にある。
高い年収レンジは自社で長く働いてもらうための要素ではあるが、それだけでは高い専門性を持った学生を確保することは難しいため、入社後のキャリアパスも含めて、面接のときにどれだけ学生を惹きつけることができるのかが、採用のポイントになるだろう。
今回は、新しい採用の形式をご紹介した。専門性の高い人材が新卒就活でも評価されるようになってきているが、中途でもこれは変わらない。むしろ、中途のほうがより柔軟な条件が提示されることが多いので、今後ニーズが高まる専門性には感度高くしておくことをおすすめしたい。